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  「失敗しない有料老人ホームの選び方」を詳しく、具体的にご説明いたします。以下は、有料老人ホーム・グリーン東京前社長の著書『やっぱり「終のすみか」は有料老人ホーム』(講談社、2006年)からの抜粋です。
 
【目次】

はじめに
第一部 介護保険はじり貧で、家族介護は崩壊
1 「介護は10年」がふつうになった
2 家族介護は崩壊の道へ
3 総費用の伸びに対応不可能な介護予算
4 消えていく老人病院

第二部 残された選択肢は、有料老人ホームだけ
1 大いに役立つ有料老人ホーム
2 誇大広告にだまされるな―公正取引委員会が定めた広告ルール
3 入居契約書はここを読め
  まず第一は、入居契約書に「解約特例」があるか
  終身利用権はあいまいな権利
  契約書にある「確認」「尊重」という言葉の軽さ
  「解約特例」が誇大広告をなくす
  消費者契約法は有料老人ホームを変えていく

第三部 認知症(痴ほう)の介護で、ホームの実力がわかる
1 誤解だらけの認知症
2 認知症の介護はむしろ楽
3 これだけは注意すべき認知症の介護

第四部 ホーム選びの勘どころと、豊かに生きる知恵
1 集団生活の息苦しさをどう避ける
2 有料老人ホームの見学や体験入居の極意
  有料老人ホームの経営者は海千山千
  職員の定着率がホームの質を左右する
  失敗しないホームの見学法とは
  ホームで行われる葬式の意味
  ぜひとも介護居室は見せてもらおう
  有料老人ホームがホームページを活用しない訳

3 人生90年時代を豊かに生きよう
おわりに

『やっぱり「終のすみか」は有料老人ホーム』(講談社、2006年)

 
第二部 残された選択肢は、有料老人ホームだけ

3 入居契約書はここを読め
●まず第一は、入居契約書に「解約特例」があるか

 有料老人ホームを選ぶ場合、入居契約書を事前に見せてくれるかどうかが、もっとも重要なポイントです。契約書こそ、すべてだからです。見学に行ったその場で渡してくれればいいですし、いちばんいいのは、ホームページ上で公開していることです。
 それは、ホームの透明性を表しているのです。
 なぜ、入居契約書を見ることがもっとも重要かというと、入居一時金が数百万円、数千万円、あるいは1億円以上のホームもあるわけで、しかもそれが終身の家賃の前払いだからです。読者の皆さんは、そのような商品を知っているでしょうか。おそらく、だれも知らないと思います。たとえば書店やコンビニエンスストア、食堂などに100万円を事前に渡して、「これで自分が死ぬまで頼むよ」などという契約をするでしょうか。やはり、そのつど買った分、食べた分の料金を払うでしょう。
 しかも、有料老人ホームというとすぐに誇大広告の疑念がついてまわりますから、入居契約書を事前に見せてくれること、さらに言えばホームページ上で公開してくれることが、何よりも重要なのです。

 入居契約書を入手したら、まず最初に「解約特例」の条文があるかどうか調べてください。これは、厚生労働省が都道府県を通じて全国の有料老人ホームに指導しているものです。というのも、誇大広告が多いので、高齢者がホーム選びを失敗しても助かるように、入居者が契約して90日以内に解約をすれば、前払いした人居合のほぼ全額が戻ってくるというクーリングオフに似た特例なのです。

 この解約特例さえあれば、安心してホームに入居できます、と言っても過言ではないでしょう。というのも、入居する前にどんなに調べても、有料老人ホームの善し悪しは入居して1〜2ヵ月しないとわからないからです。

 では、全国の有料老人ホームはどの程度に情報を事前に開示しているのでしょうか。実際の状況については、下の図表を見てください。
 これは、平成18年3月、国民生活センターが全国の有料老人ホームに対して行った「有料老人ホームをめぐる消費者問題に関する調査研究」の結果として発表した報告書のなかの一つで、「入居の申し込み前に重要事項説明書を見せるか」という問いに、各有料老人ホームが答えたものです。重要事項説明書とは、各都道府県を通じて厚生労働省が行政指導で有料老人ホームにつくらせているもので、料金や設備や人員など、細かく書かれているものです。



 この調査結果を見ると、「入居契約をする際に、渡す」という介護付き有料老人ホームがもっとも多く(76.1%)、逆に「入居契約後に、渡す」が3.4%存在します。また、「請求があれば、入居申し込み前に、消費者に渡す」ホーム(69.1%)や、「来訪した消費者に請求があれば見せ、入居申し込み後に渡す」ホーム(44.0%)が多いようです。それに対して、「ホームページ上に公開している」ホームは9.0%にすぎません。
 こうした点を見ても、有料老人ホームとは、いかに暗黒大陸かがよくわかります。しかも、私が最重要ポイントとして指摘した「入居契約書を事前に見せる」、「一番いいのはホームページ上に公開している」という二点にはほど遠いことがわかります。非常に残念なことと言わざるを得ません。これでは、トラブルに発展するのは当然のことと言えるでしょう。

 ところで、入居契約書や重要事項説明書を読んでも、初めての人にはよくわからないことが多いはずです。また、書いてあることはある程度は判断できても、隠されていて書かれていないところは判断できません。しかし、いずれにしても事前に見せてくれるとか、ホームページ上に契約書が載っていることは、再三くり返しますが、実に重要なことなのです。

 私は、20年前に有料老人ホームの業界に入ったときに、ある消費者保護の大御所に出会いました。大御所とはいっても、私と同じ歳ぐらいの若い女性でしたが、いつも言うことは実に理にかなっていました。
 あるとき、その女性は情報開示の本質について教えてくれました。
 食品添加物の原材料表示というものは、今や必須事項になっています。そこには、「赤色5号」という言葉があったりします。と言っても、赤色5号と言われてもだれもわかりません。しかし、その道のプロが見ればわかります。情報開示とはどういうことかというと、それを買う直接の消費者がわからなくてもいいのです。どんなわからない言葉でも情報が開示されていれば、さまざまなプロがチェックしているということです。
 私は、20年も前に教えられたこのことが、ちょうど有料老人ホームの業界に入ったときだったこともあって、未だに情報開示の原点だとよく思い出します。


 
●終身利用権はあいまいな権利

 ここでお話しすることは、すでに公正取引委員会の定めた広告の法令のところで説明済みです(本書の第2部2節「誇大広告にだまされるな」)。しかし、あまりに大切なことですので、くり返して触れておきたいと思います。

 有料老人ホームに入居するときに入居一時金という高額なお金を払いますが、それで得られる対価とはいったい何でしょうか。それは、「終身利用権」という権利です。この終身利用権という言葉は、六法全書には載っていません。すなわち、法的には守られていないきわめて弱い権利なのです。
 本来ならば、「借家権」とか「居住権」と言うべきです。1年もアパートに住んでいれば、居住権という強い権利で守られています。家主側が一方的に立ち退くように要求しようとしても、それはかなり無理な話です。

 しかし、有料老人ホームでは、介護が必要になると小さい部屋に移されたり、ときには相部屋であったりしますが、かといって、そのような著しい不利益を受けても、その見返りとして大金を返されることはあまりありません。ホーム側の都合によって居室を移せるように、この業界は借家権とか居住権という言葉を避けて、終身利用権というあいまいな言葉を使っているのです。
 あるいはまた、認知症になった入居者は共同生活を乱すということで、退去させられたりします。これも、居住権という強い権利がないからです。現在すでに 170万人という認知症の人がいるという時代に、有料老人ホームの権利が終身利用権ということは、これは「終身介護ではない」ということかもしれません。

 以前でしたら、有料老人ホームのほうで「いい老人病院を紹介しますよ」とか「特別養護老人ホームに移ることができるように、ホームのほうで交渉しますから」というようなことも多々あったようです。しかし、第1部(介護保険はじり貧で、家族介護は崩壊)で述べたように、老人病院は消えていく運命ですし、特別養護老人ホームヘの入居は困窮者にほぼ限定されてしまいました。これからは病院や公的施設に移ることはほとんど困難になるでしょう。

 たしかに、日本の法律は高齢な消費者を守る方向に次々と変わっています。たとえば平成13年8月からは、正式に「終身借家権」という権利が、国土交通省の主導で進められた「高齢者の居住の安定確保に関する法律」という長い名称の法律によって認められました。しかし、有料老人ホームの業界には終身借家権は波及していないのです。
 ちなみに「グリーン東京」では、終身利用権方式(居室内は終身居住権)と契約書に書いて、強い権利を入居者に差し上げています。


 
●契約書にある「確認」「尊重」という言葉の軽さ

 介護が常時必要になってくると、居室を移り替わるということが有料老人ホームではよくあります。この場合に注意していただきたいことは、たとえば、介護居室への変更の手続きとして、次のように書かれてあったとします。

 医師の意見をふまえ、ご本人や身元引受人の同意を得て、一定の観察期間をおいたうえで、一般居室の権利を消滅させ、介護居室への移動を行います。
 また、移動した部屋の面積が減少する場合には、入居一時金については一部返金などの清算を行います。
 先に紹介した国民生活センターの報告でも、この点が問題とされています。「医師の意見をふまえ」云々とあっても、その医師は有料老人ホームが雇っている医師です。また、ご本人や身元引受人の「同意」という文言があるかどうかです。この場合、「同意」のほかに用いられる言葉は「参考」や「確認」「尊重」です。

 一見すると、これらの言葉にはそれほど違いはないように思えます。しかし、介護居室への移動を行うときに、「参考」や「確認」「尊重」では、ホームによっては本人や身元引受人の意見が無視されることも起こり得ますので、要注意です。たとえば、「介護居室への移動は困る」という入居者本人の気持ちはたしかに「確認」した。
 しかし、ホームとしては、いろいろ考えると介護居室へ移っていただく、と決定するかもしれません。
 同じことですが、本人の意思を「尊重」するといっても、どの程度に尊重してくれるのか、ホームごとに異なるでしょう。介護居室に移り住むときは、ホーム側の世話を受けなければ生活できない状態になっていますから、もはや入居者や身元引受人には、ホーム側との対等な交渉力はありません。入居者や身元引受人の意見を形式的に聞くだけでは、「参考」「確認」「尊重」という言葉に何ら重い意味はありません。

 もしも、そういう言葉をホーム側が重く受けとめているとすれば、そもそも介護居室を小部屋にしたり、相部屋にすることはなかったでしょう。数千万円もの入居一時金を払ったにもかかわらず、小部屋に移ることを好む入居者がいるとはとても思えませんから。
 さらにまた、「同意」という言葉にも注意が必要です。必ず「同意書」でなければいけません。しかも、その同意書は入居を考えているときに、事前に入居者本人や身元引受人に知らされていなければいけないのです。
 数千万円の入居一時金を払い込んだのに、わずか数年で脳卒中で寝たきりとなったら4人部屋の介護居室に移された、というのでは、入居者の権利が損なわれていると言えます。そこで、「移動した部屋の面積が減少する場合には、入居一時金については一部返金などの清算を行います」という文章が付加されている場合があります。
 しかし、問題はその内容です。たとえば、その清算金が10万円だったとしたらどうなるのでしょう。それは、引っ越し代金の意味しかないかもしれません。お見舞い金にすぎないかもしれません。したがって清算金については、契約書にきちんと介護居室に移る場合の清算式が書かれていることが重要だと思います。

 次に注意したいのは、介護居室は個室かどうかということです。これについては第4部(ホーム選びの勘どころと、豊かに生きる知恵)の「2 有料老人ホームの見学や体験入居の極意」の項で詳しく述べますので、ここではちょっと違った観点からふれてみましょう。

 5年ほど前のことです。会津にとてもすぐれた障害者のための施設があると聞いたので、そこを見せてもらったことがあります。その施設は、すべて個室でした。施設長が自慢気に案内してくれました。
 障害者の方々は外出が困難ですから、パソコンで時間を過ごすことが多いようです。したがって、「この施設の内部事情はメールによってどんどん外に漏れてしまいます」と、その施設長は堂々と得意気に話してくれました。
 有料老人ホームの場合は、入居者は高齢者ですからパソコンを使うことはできないかもしれませんが、やはり個室ならば、部屋に電話が引けます。だれにも聞かれずに、ホームヘの苦情を家族に伝えられます。
 「グリーン東京」でも、来園された家族の方がホーム内の事情を実によく知っていることに驚かされることがあります。「この間、深夜に虫が火災報知機に飛び込んで大きなベルが鳴りひびいて、大騒ぎになったんですってね」とか、「看護師の○○さん、ご結婚で退職されたようでおめでとうございます」というふうに、こと細かに知っているわけです。実際、有料老人ホームというものは風通しのよさが必要です。
 個室は、その風通しのよさを保つためにも必要なものと言えます。


 
●「解約特例」が誇大広告をなくす

 すでに述べたとおり、平成18年3月26日付の朝日新聞に、有料老人ホームについ
て、国民生活センターヘの相談は平成12年以降900件近くあるという記事がありま
す。記事のなかで、「多いのは、短期間で退去したのに、入居一時金を業者が十分返さない、という訴えだ。一時金の5〜20%を入居時に業者側が取る『頭取り』という商習慣があるため、入居者側は不満があっても別のホームに移りにくい」と書かれています。
 具体的に説明しますと、こういうことです。1000万円の入居一時金を払って入居したものの、1〜2ヵ月経って、「これはひどいホームだ。住むのは嫌だから出る」と言っても、350万円が償却されてしまって、650万円しか返ってこないというような慣習を、「頭取り」と呼んでいます。
 消費者団体は、この頭取りをかなり以前から批判しています。「嫌だ、出る」と言っても多額の金額は返ってこないので、そのまま泣き寝入りさせていると指摘しているわけです。

 頭取りの問題としては、もう一つあります。たとえば入居者が月々の家賃を払っていけば、滞在している間はずっとホームには収入が入って、売り上げが立つわけです。したがって、入居一時金という一括払いで頭取りをするということは、売り上げの前倒しになります。後年に売り上げに上げるべきものを、入居と同時に売り上げに上げてしまうということは、とても健全な経営とは言えません。さらにシビアな見方をすれば、頭取りが大きいホームについては経営が不安なのか、とまで考えられるかもしれません。

 あまりにも全国各地の消費生活センターに苦情が多く寄せられたこともあって、厚生労働省は平成18年3月31日、全国の都道府県の知事宛に、有料老人ホームヘの行政指導について通知しました。

 内容は、入居契約の締結日から90日以内に限って解約があった場合は、前払金のほぼ全額を入居者に返還するように、というものです。これは、クーリングオフに似た制度です。

 これは、実に素晴らしい制度です。なぜなら、私はそれによって誇大広告がなくなっていき、有料老人ホームのサービスの質がよくなっていくと思うからです。
 誇大広告で入居者をいくら集めても、中身がうそだとわかれば簡単に出ていってしまう、あるいは職員の定着率が低くて介護サービスが悪ければすぐに出ていってしまう、といった事態になったら経営は成り立ちません。そうならないために、90日のクーリングオフ制度を有する有料老人ホームはこうした問題点については改善を図る、といったことが考えられるからです。

 入居一時金とは、終身の家賃の一括前払いです。くり返しますが、こんな支払方法はふつうの商品にはありません。

 前払いとは、だれが見ても、経営者にとってきわめて有利で、消費者にとってきわめて不利です。代金を全額払ってしまえば、消費者はその後の交渉力を失うからです。途中でホームを退去しても、返還金はいくらも戻ってきません。その返還金で、次の有料老人ホームに入居することはほとんど不可能です。
 数千万円もの終身の家賃の一括前払いという方法が、消費者から見ても有利であるのは、一つの場合しかありません。それは、人生の定年までホームで暮らすことができたときだけです。「嫌だ、出る」と、途中で退去するのは、前払い方式では最も損なのです。したがって、厚生労働省が指導しているように、入居して90日以内ならば前払いした大金を取り戻せるようになっているか否かについて、ぜひ注意して入居契約書をチェックし
てください。

 この場合、「重要事項説明書」だけではなくて、必ず「入居契約書」で確認することが大切です。なぜなら、重要事項説明書と入居契約書の中身が異なっていることも少なくないからです。トラブルになったときに、もっとも優先するのは、サインしてハンコを押した契約書だからです。


 
●消費者契約法は有料老人ホームを変えていく

 最後に、「消費者契約法」について述べてみたいと思います。
 平成13年4月に、高齢な消費者を守るために、ようやく日本でも消費者契約法という法律が施行されました(「第一条」参照)。ヨーロッパ諸国では古くから普及していました。

 消費者契約法は、事業者側がつくった一方的な契約書が、消費者にとってあまりに不利益であった場合には、たとえ購入したあとでもその内容を無効にできるという画期的な法律です。
 たとえば、消費者契約法によって、最近では、入学前に支払った私立大学の授業料は、学生が入学しなければ返還されることになりました。

 そもそも19世紀にできあがった民法の基本は、「契約自由の原則」です。消費者と事業者とが自由に契約すればよいのです。民法は、ヨーロッパで市民革命が起こり、王様も貴族も市民もだれもがみんな平等なのだ、という前提でつくられた法律だからです。
 ところが、20世紀は商品が多様化し、消費者は十分な商品知識をもてないままに不利な契約を強いられることが多くなり、それによって消費者被害が日常茶飯事となったわけです。


[消費者契約法 第一条]
 この法律は、消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差にかんがみ、事業者の一定の行為により消費者が誤認し、又は困惑した場合について契約の申込み又はその承諾の意思表示を取り消すことができることとするとともに、事業者の損害賠償の責任を免除する条項その他の消費者の利益を不当に害することとなる条項の全部又は一部を無効とすることにより、消費者の利益の擁護を図り、もって国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。


 21世紀に入り実施された消費者契約法は、「消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差にかんがみ」と明記し、民法の前提をくつがえしました。情報量や交渉力に格段の差があると認めたのです。
 消費者契約法は、まだできたばかりの新しい法律ですが、これからいろいろな判例が積み重ねられていき、全国の消費者に恩恵をもたらすことでしょう。また、有料老人ホームの契約というものが入居者にとってかなり不利にできているので、いずれはそうした点も消費者契約法によって是正されていくと考えてもよいかと思います。たとえば、有料老人ホームの入居一時金の「頭取り」という悪習は、消費者契約法で禁止された大学の授業料の入学前の前払いによく似ているのです。

 最後に、この第2部を終了するにあたり、どうしても読者の皆さんにくり返してお伝えしたいことがあります。
 それは、公正取引委員会の定めた広告の法令とか、入居契約書の読み方など、ここに書かれたことをぜひとも自分の目で確認しながら、有料老人ホームを選んでいただきたいということです。

 と言いますのも、たとえば、公正取引委員会は法令で定めましたが、全国の有料老人ホームに対して法令通りの広告になっているかどうか、ほとんどチェックしていないからです。現に、いろいろなホームページを開いてみれば、公正取引委員会の定めた法令を解説しながら、それにそって現在もっとも有力な広告であるホームページをつくっている有料老人ホームなど、皆無と言っていいからです。

 同様に、厚生労働省の指導は、
(1) 90日以内の解約は前払い全の全額を返すこと
(2) 介護居室は、広さが13平方メートル以上の個室であること
(3) 介護居室の廊下の幅は1.8メートル以上であること
(4) 有料老人ホームは、入居者を公的介護施設や病院、診療所などに移して介護してはならないこと
(5) 入居一時金の償却年数は、平均余命を勘案して決めること
などとなっています。


 とくに(5)は、75歳の女性の平均余命は15年とありますから、償却期間が10年未満
では経営的に問題があるということでしょう。
 しかし、これはあくまでも行政指導ですから、有料老人ホームの経営者は、守る義務は法的にはありません。したがって、「終のすみか」の有料老人ホームを間違いなく選ぶ仕事は、残念ながら読者の皆さんの責任なのです。

「終わりよければすべてよし」という格言があります。ということは、人生の終わりが悪ければすべて悪いということでしょう。とにもかくにも大変な作業となりますが、全力で有料老人ホームの善し悪しを自分白身で調べることです。本書が、必ずそのお役に立つと思います。


 
第四部 ホーム選びの勘どころと、豊かに生きる知恵

2 有料老人ホームの見学や体験入居の極意
●有料老人ホームの経営者は海千山千

 若いときはもちろんですが、70歳ぐらいまでは、経験もしくは失敗を積み重ねながら人は成長していくものだと思っています。しかしながら、老後というのはまったく逆です。だんだん足腰が弱り、記憶力が薄れていきますから、未知の世界に年々足を踏み入れていくようなものです。やることなすこと、初めての体験ばかりとなります。

 つまり、5年後の自分の身体はどうなっているのか、10年後の自分の判断力はどの程度まで落ちているのか、といったことはまだ見ぬ別世界なのです。ですから、有料老人ホームを選ぶにあたって、元気なときにホームを見学して回っていても、10年後もこの建物は自分にとって住みやすいのかどうか、介護が必要になったときに、このホームのサービスは自分にとっていいサービスなのかどうか、といったことを判断するのは非常に難しいと言えます。
 しかも、これだけ多くの入居者の集団生活を、いったいこのホームはまとめ上げていく力があるのかないのか、そこまで自分で調べろと言われたら、もはや不可能というものでしょう。たとえば、テレビというものを見たこともない人が、テレビを買いに行くようなものなのです。

 そこで、私の20年の現場体験から、有料老人ホームの見学や体験入居の極意をお話ししたいと思います。
 まず第一に、入居契約書のコピーをもらって、厚生労働省が行政指導で定めている「解約特例」という条文があるのかないのかをしっかりと確認することです。契約してから90日以内ならば、入居者はほとんど損害なく解約できるというのが「解約特例」です。
 この条文がなければ、ホーム側はサービス内容に自信をもっていない証拠ですし、入居者白身もホーム選びに失敗してもやり直しはききませんから、やめておいたほうが無難かもしれません。
 解約特例の条文があれば、次は施設のチェックをします。ホーム内がバリアフリーになっているかどうかですが、これはあまりにも当たり前なことです。大切なのは、ホームの周辺も坂や階段が少ないことです。というのも、ホームのなかは集団生活なので、息苦しさがどうしてもともないます。したがって、外出あるいは散歩が大変重要となります。それは身体の健康のためと同時に、心の健康のためにも必要なのです。

 しかし、だんだん足腰が衰えてくるのは避けられません。75歳のときにはまったく気にならなかったゆるやかな坂が、80歳になると傾斜のきつい坂に見えてきて歩くのが苦痛になります。出かけるときはゆるいくだりの坂だったのに、疲れてホームに帰ってくるときは、きつい上り坂ということですから、外出の回数がどうしても減ってしまいます。

 冒頭で、老化とはだんだんわからない世界に入っていくことだと述べましたが、ではそのわからない世界は調べようがないのかというと、実は方法はあります。それは、自分が車椅子に乗っていると想像することです。
 あるいは、ホームに見学に行ったときに、「私は足が弱っているので、車椅子を貸してくれませんか」と言って、ホームから車椅子を借りて見学するのも一つの方法です。車椅子から眺めてみると、トイレや食卓など、一つひとつを違った角度から見ることができます。
 じっくり見ていくと、それら一つひとつが細部にわたって高齢者用に工夫されていることを発見できるでしょう。「グリーン東京」では、食堂の家具はすべて特別注文です。車椅子の人が利用しても、足の先がテーブルの脚などにぶつかりません。ほとんどの椅子の肘掛けは座りやすいように片方しか用意されていません。

 見学する際に気をつけておきたいことは、車椅子にはかなりの横幅がありますから、廊下はある程度の幅がないと車椅子同士のすれ違いができません。この廊下の幅も、重要なチェックポイントです。廊下は、有料老人ホームの経営者から見ると、いちばん頭を悩ますものです。
 なぜかと言うと、食堂やロビーや風呂、医務室などは大切な共用部分であり、見学者もきちんとチェックされます。何よりも居室は入居者が最も注目する場所ですが、廊下に関しては見学者はその重要性についてだれも評価してくれないからです。
 ですから、10メートルの奥行きの建物があった場合、8メートルを部屋にして2メートルを廊下にするのか、それとも9メートルを居室部分に使って1メートルを廊下のスペースとして残すのか、そこを経営者はあれやこれやと考えるわけです。奥行き9メートルの居室のほうがずっと入居金を高く設定できますから、どうしても廊下の幅は削りたいという気持ちになりがちです。
 さらに経営者にとってつらいのは、有料老人ホームの廊下は両廊下ではなくて片廊下だということです。つまり、廊下の片側にだけ居室をつくることになります。というのも、お年寄りは日なたを好みますから、北側の居室は売れないという事情があるからです。そのために、廊下の南側にだけ居室をつくるわけです。

 これに対して、介護専用型の場合は両廊下がほとんどです。というのも、介護専用型のホームは、入居する本人が入るのを決断するというよりも、介護に困った子どもが老親を入れるわけですから、親の居室が南向きであろうがなかろうが、それほど気にならないからです。北側に面して居室があるということは、入居の可否を決断するのは入居者本人ではないということを如実に示しています。

 ホテルを考えると分かりやすいでしょう。つまり、100室のホテルがあるとすると、ホテルは廊下の両側に部屋が並んでいますから、廊下の長さは半分の50室分ですみます。しかし、有料老人ホームの場合、100室の部屋があれば100室分の廊下の長さが必要になるわけです。しかも、幅の広い廊下が必要です。したがって、建物の建設費のかなりの部分を廊下が占めてしまいます。

 では、廊下の効用とは何でしょうか。廊下の幅が車椅子二台分なければすれ違うことができないし、すれ違うことができなければ、車椅子の生活になったときに居室から廊下に出られません。共用部分にも行けなくなります。
 しかし、有料老人ホームにとっては、車椅子二台分の廊下の幅をとっても、まだまだ不十分です。なぜなら、廊下にはいろいろなものが置かれるからです。靴を脱ぎ捨てるように、車椅子が廊下に置かれていることもあります。そうなると、廊下は車椅子三台分の幅が必要になってくるのです。また、職員にとっても、廊下の幅が広ければ広いほど仕事がしやすくなります。
 さらに言えば、お風呂の湯舟にタオルをもち込むのはやめましょうとか、夜の八時半を過ぎたらテレビの音は小さくしましょうとか、いろいろな共同生活のルールがあるわけです。その中でも大きなルールは、お互いの部屋をできるだけ訪問しないというものです。訪問されるほうは相手の入室をなかなか拒否できませんし、早く帰ってほしい、などと思ったりするものです。

 そういう意味では、廊下での立ち話は重要です。「グリーン東京」でも、食堂から居室に帰るときに、エレベーターから同じ階で降りた2〜3人が廊下で数分立ち話をしてから別れるという光景をよく目にします。

 また、有料老人ホームを選ぶときに、そのホームの経営理念を調べなさいとか、そこの経営者と話をしなさいというアドバイスがよくあります。しかし、それは決して信用してはいけません。経営者というものは海千山千ですから、どんな経営理念をもっていても、それを鵜呑みに信用したら危ないのです。
 代わりに、有料老人ホームの経営理念は、「嫌でしたら90日以内に解約していただければ、入居金はお返しします」という厚生労働省が指導している解約特例という条文が契約書にあるかどうかとか、あるいは廊下の幅で測ってください。全然、お金にはならないところですが、廊下の幅が広ければ職員は働きやすいし、いい介護ができるのです。あるいはまた、そこが社交の場となるわけです。
 廊下の幅を測るといっても、職員のいる前で露骨に物差しを取り出して測るわけにもいかないでしょう。そこで、たとえば紐を使ってみたらどうでしょうか。さりげなく紐で廊下の幅をチェックするのです。帰宅してから、その寸法を側ればいいでしょう。
 そうして5つ、6つのホームを見学していくと、このホームは何となく住みいいなという印象と廊下の幅が見事に比例するということがわかるはずです。


 
●職員の定着率がホームの質を左右する

 次の重要なポイントとしては、職員の定着率です。すでに認知症の介護のところで述べましたが、職員の定着率は有料老人ホームの善し悪しを測るうえで大きな目安になります。その有料老人ホームが良心的なのかそうではないのか、働きやすいところなのか、それをいちばん知っているのは、実は日夜働いて、すみずみまで知り尽くしている職員だからです。
 有料老人ホームというところは、いわば「人は石垣、人は城」という職場です。そのため、良心的ではないホームには良心的な職員はまずいられません。
 職員がどんどん辞めていくのか、あるいは長いこと勤めているのか、それによって有料老人ホームの善し悪しがわかるわけです。日本では介護施設の職員の定着率はまことに低く、だいたい2年で入れ替わると言われています。これでは、職員の仕事は機械的となり、入居者に対して心の通じたサービスはなかなか提供できないでしょう。

 くり返すようですが、職員が何年も何年も勤めているということは、サービスの質がいかに高いかを示しているのです。長年勤めている職員ならば、一人ひとりの入居者の好みやくせまでよく知っています。さらに、職員同士の和が保たれていてチームワークがよいからです。
 入社して半年の看護師と、入社して5年の看護師では、その能力はまったく違います。入社して5年の看護師のほうが、入居者全員の身体や心や、一つひとつの薬についての副作用などについても詳しく知っています。職員の定着率が高いか低いかを知るには、体験入居のときに、入居者の方々に「ここの看護師さんは何年ぐらい勤めているの」などと聞けば、だいたいのところはわかります。

 その点、契約して90日以内ならば損せずに解約できます、という解約特例があれば、最高に安心できます。1〜2ヵ月もホームで生活すれば、職員の定着率ははっきりとわかるからです。もしも、入居した老親ではそれらをチェックできなければ、子どもの役割です。親が入居した直後は頻繁にホームに通うことです。

 見学の方法についても、その極意をお教えしましょう。まず、ほとんどのホームで「特別見学会」を開催していますが、できれば特別見学会だけでホームを決めるのはやめたほうがいいでしょう。というのも、たとえば寮母が50 人いたとしても、それぞれ1人当たり年間120日ほどの休みがあります。また、1日8時間しか働いていませんし、夜勤があれば明けの日の翌日も休日になります。したがって、50人の寮母がいれば、ふつうに考えると出勤しているのは1日あたり23〜24人と考えられます。
 しかし、特別見学会が3日間開催されているとすれば、その間、50人のうち毎日40人が出社しているかもしれません。そうなると、職員の人数は非常に多めに見えます。そういうことを考え合わせると、特別見学会はたしかに見学しやすいかもしれませんが、その日だけで入居するかどうかを決めてはいけないということです。

 職員の数が多いと、必ずサービスの質はよくなります。それはまず、職員に余裕がありますから、入居者への声かけからして違ってきます。有料老人ホームの経営とは、日常的な経費のうちおよそ3分の2が人件費になります。ですから、寮母を10人減らせば、赤字のホームでも一気に黒字になります。ということは、職員の数が少ないホームは、きわめて営利的であるか、あるいは経営が危ないか、そのどちらかでしょう。
 また、プライバシーの確保された個室で要介護者が生活できるかどうかも、介護する寮母の人数によります。やはり一つの部屋に多くの入居者がいるほうが、職員にとっては働くのは楽です。そこで、寮母の人数を書面にてチェックし、その人数をホームに住んでいる入居者にも聞いて確認しておくことが重要です。
 公正取引委員会は、看護師、准看護師、介護福祉士、ヘルパー2級など、有資格者ごとに人数を広告に載せるように法律で定めています。しかも、パート職員については週40時間といった常勤職員の勤務時間に換算し直して人数を表示するように、という念の入れようです。

 しかしながら、公正取引委員会は全国の有料老人ホームに対して、広告ルールの法令を守るようにという指導を厳しくはしていません。そのため、法令を守らずに人数表示をしていないホームが現実には多いのです。したがって、ホーム選びは実に疲れることになるのですが、いくら大変でも、公正取引委員会の広告ルールの法令を見学者が自ら調べて、自分で各ホームをチェックするという面倒な作業が必要となります。
 介護保険制度の狙いの一つは、株式会社による福祉の民営化です。にもかかわらず、有料老人ホーム事業を振興していながら、一方で各ホームの広告をまともにチェックしていないのがこの国の姿勢です。ですから、法令を守らない有料老人ホームがまかり通ってしまうわけですが、いずれにしても人数表示をしていない有料老人ホームは決して選ばないことが大事です。

 このように、素人にとっては有料老人ホーム選びは大変な作業なので、その代わりに紹介業者という職業が成立するわけです。紹介業者の善し悪しは何ともよくわかりませんが、少なくとも公正取引委員会の広告ルールの法令を基準にしていないものは、信用しないほうがいいのかもしれません。
 寮母の出勤表を見せてもらうことも大切です。曜日ごとに、何人出勤していて、どの寮母が夜勤か、どの寮母が朝の早出かなど、寮母全員の日々の担当が一覧表になって書かれているもので、職場では「ローテーション表」とも呼んでいます。
 厚生労働省の行政指導では、有料老人ホームは、要介護者3人に対して直接介護にあたる職員1人以上を配置しなければならないことになっています。注意すべきは、この3対1という比率では、それほどいい介護はできないということです。というのも、特別養護老人ホームと異なり、有料老人ホームの建物は介護を第一の目的として設計されたものではないからです。
 それに、3対1といっても常に要介護者3人に対して寮母が1人働いているということではありません。寮母には休日がありますし、勤務時間は残業を入れても週に40数時間にすぎませんから、実際に現場で働いている寮母の人数は、要介護者6人に対して日中でも1人といったところでしょう。
 したがって、要介護者と寮母の人数の比率は、3対1ではなく、できるだけ2対1に近づくのが理想です。こうなると、認知症の要介護者でも個室で暮らせますし、要介護者の通院に寮母が付き添うことも楽にできるようになります。

 ほかにも、入居者にとって、寮母の人数が多いととてもよいことがあります。寮母に、笑顔が出るからです。
 介護とは、人と人とが関わることです。すなわち、有料老人ホームとは職員にとっては職場であり、入居者にとっては日々の生活の場です。職場と生活の場が、同じ建物のなかでいっしょになっているのが有料老人ホームの特徴です。そこでは、さまざまな介護サービスは寮母から入居者へと直接手渡されます。したがって、寮母の気持ちに余裕がなければ、介護サービスが気持ちのよい言葉や態度で行われることは期待しにくいでしょう。介護を受ける入居者も、寮母が不機嫌では、いい気持ちになれるわけがありません。

 福祉とは救貧政策であり、福祉とは困った人を助ける慈善事業であって、断じて接客業ではないという考え方が、日本には未だに根強くあります。これは、日本の戦後の福祉が経済大国となった後も、救貧政策を長くつづけたためなのです。
 しかし、私は、福祉は人と人の関わりであって、一般産業の接客業と同じようなものだと思っています。もちろん、サービス業の基本は笑顔です。ですから、 20年前に民間福祉の世界に飛び込んだ私は、どうしたら職場が明るくなるのか、職員に笑顔が出るのかと真剣に考えていました。
 その解答は、平成2年に視察したデンマークで得ることができました。「たくさんの職員で仕事をすること。寮母が走り回っているようではだめ」。答えは実に明快でした。


 
●失敗しないホームの見学法とは

 さらに、具体的な見学の仕方についてお話ししましょう。
 第一には、見学に関しては70歳前後のなるべく若いうちに見学してほしいということです。夫を自宅で看取ったので、49日が過ぎたらホームに入ろうとか、一周忌が過ぎてから入居を考えようというようなことではなくて、入る気のない若いうちから有料老人ホームは見学してください。
 というのも、もはやこれからの日本では、有料老人ホームで晩年を過ごす可能性はかなり高い確率になってくるからです。将来は、3人に1人が有料老人ホームに入ることになるかもしれません。国は公的福祉からどんどん後退し、民営化を進めていくことは目に見えています。ひょっとすると、10年後には有料老人ホームが200万〜300万室になっているかもしれません。そうとなれば、若いときから準備をしておくことが、とても重要になるのです。人生の終わりが悪ければすべて悪くなるのですから、60歳前後になったら、必ず有料老人ホームの勉強を始めてほしいのです。数あるなかから有料老人ホームを選び出し、自らの、あるいは老親を託す「終のすみか」を選ぶという作業は、生やさしいものでは絶対にありません。

 また、入る気のないときに見学をすると、いいところばかりでなく悪いところも目につきます。すぐにも入らなければいけないという気持ちで見学すると、お見合いではありませんが、どうしても相手のいいところだけを見たがってしまいます。入る気もないときに、いくつものホームを見学することで目を肥やしていただきたいと思うのです。

 若いときからたくさんのホームを見ていただきたいという理由のもう一つは、料金が手ごろであるとか、職員の数はどうなっているか、あるいは認知症の人に薬が大量に投与されているので顔に表情が少ないなど、さまざまなことがわかってくるからです。ホームをたくさん見てほしいということは、あわてて入居を決断しないでほしいということでもあります。

 第二には、複数で見学すること、とくに男性は、女性の方といっしょに見学してほしいと思います。
 日本の男性は、結婚してもなかなか家事に協力しません。とりわけ、高齢の男性になると、「男子、厨房に入るべからず」とか、極端だとは思いますが、自宅で女房に発する言葉は「風呂、めし、寝る」の3つだけだとか言われるように、どちらかというと家事に無頓着なままで人生を送ってきた方が多いようです。私がそのように感じるのは、男性の見学者を案内した数多くの経験からです。残念ながら大半の男性は生活感覚がありませんから、有料老人ホームの善し悪しを見る目をもっていません。
 食事一つをとってみても、風邪を引いたときは部屋まで運んでくれるのか、その料金はいくらか、あるいは欠食したときは月々の食費からいくら返金されてくるのかなどなど、ホームに質問すべき項目はいくらでもあります。男性の場合は、こうした家事サービスについての質問がほとんど出てきません。男性一人での見学は、連れ合いに先立たれたというケースが多いのですが、娘さんやお嫁さんなど女性といっしょになって見学したほうが確かだと思います。

 厨房は外からでもいいですから、必ず見学してください。女性が見れば、セントラルキッチンなのか、それとも肉や野菜を素材から調理しているのか、その違いがわかります。やはり、食べ物はその場で食材から調理した直後に食べるのがいちばんおいしいに決まっています。それに、有料老人ホームでの生活は三度三度の食事が大きな楽しみです。
 女性の場合もまた、一人での見学よりも複数でホームを訪問したほうがよいと思います。一人だと臆してしまうのか、あまり質問ができませんし、複数の目で見て見学後に感想を述べ合うのが賢い見学法と言えるでしょう。

 第三に、いつでも見学させてもらうことです。
 月に1回といった特別見学会のように、着飾ったときの有料老人ホームではなく、普段着のままの有料老人ホームを見るべきです。有料老人ホームにきちんとした介護体制があり、「終のすみか」となっているかどうかを見きわめるには、現に要介護者がホームで生活している状況を、入居を希望する見学者が自分の目で必ず確認することです。さらに念を入れるためには、本当に365日いつでも介護をしっかりと行っているかをチェックすることが重要です。

 第四は、新品のホームがいいとは限らないことです。
 私自身が多くの見学者を案内してわかったことですが、新しく建設されたばかりのホームを希望される方が少なくありません。たしかに、私たちはマイホームを購入するとき、中古の家よりも新築の家を選ぶほうが気持ちがいいものです。しかし、有料老人ホームという住まいは、建物というハードも重要ではありますが、それ以上に欠かせないものは、介護などさまざまな生活サービスというソフトです。
 ソフトの善し悪しは、現に相当数の要介護者が生活していて、介護サービスが提供されている古いホームほど、消費者は確かめるのに苦労がありません。


 
●ホームで行われる葬式の意味

 病院について、仮に一つの数値だけで格付けをするとすれば、それは剖検率、すなわち死後解剖の多さ少なさにあると思います。医師にとっては、亡くなられた方の身体を解剖することによって、今までの治療方針が正しかったのかどうか、あるいは別の治療法のほうがよかったのではないかと、いろいろなことがわかって勉強になります。
 ただし、遺族から見れば、肉親が死んだばかりで呆然と泣きはらしているときに、突然、医師から「ご遺体を解剖させていただけませんでしょうか。ほんの2、30分です」と言われても、とても承諾できるものではありません。つまり、剖検率の高い病院とは、生前に遺族が何度も通っているときに、非常に病院の雰囲気がよかったとか、医師が病状をきちんと説明してくれたとか、どの看護師さんも患者や家族の心の痛みがわかり、温かく接してくれたとか、そうしたことが作用しているのです。したがって、剖検率の高い病院は、いい病院だと言えるわけです。

 実は、有料老人ホームにも同じことが言えます。それは、ホームのなかでどのくらいの比率で葬儀をあげるかということです。昔に比べると、どこのホームも葬儀の比率は格段に高まっています。理由は、昨今の葬儀は家族葬がほとんどだからです。要するに、結婚式が小型になっているように葬式も小型になり、わざわざお寺で葬式をあげることが少なくなってきたために、ホームで一室を借りるというケースが増えているのです。
 老親がホームに入居している場合、家族は月に数回、あるいは年に数回訪問したときに、ホームについて好き嫌いの印象は何かしら持っているはずです。国民生活センターの傘下にある全国の消費生活センターに寄せられた有料老人ホームに対する苦情が、6年間で 900件近くにものぼっているのは、とても尋常な数ではありません。
 それらは、「広告にうそがあってだまされた」とか「入居してすぐに退去したら、500万円が戻ってこなかった」とか、「ボケたら出された」というような内容です。こうしたホームで遺族は親の葬儀を出すとは思えません。

 要するに、家族にしてみれば、自宅に引き取れないので仕方なく親を預けていたという事情もあります。そのようなことを考えると、お葬式が小さくなっているからといって、「ホームの葬儀場を貸していただけませんか」と言ってくるのは、まだまだ少ないのではないでしょうか。
 「グリーン東京」の場合は、近年は8割から9割の方がホームのなかで葬儀をあげますが、私としては3割くらいの方が葬儀をあげてくれるならば、いい有料老人ホームと言えると思います。やはり遺族にしてみれば、生前の友人はこのホームにいたし、最後の数年は寮母さんや看護師さん、生活相談員など多くの職員にとてもお世話になったので、職員の皆さんにもいっしょにお線香を上げてもらいたいということでしょう。


 
●ぜひとも介護居室は見せてもらおう

 ホームの見学の際には、介護居室を見せてもらうことが重要です。
 第一部で述べたように、もはや、大半の人が車椅子の生活や認知症を中心とした脳機能疾患になるというのが、人生90年時代というものです。それも、5年、 10年という長期にわたります。そうなると、ホームがオープンして20年も経てば、入居者のうちの半数近くが要介護者になっていると考えても不思議ではありません。そのときに同じホームのなかで、さまざまな入居者がお互いに気持ちよく暮らせるかどうかは大きな問題です。
 あるいはホームにとっても、自立している人の部屋のとなりに寝たきりの人がいて、そのとなりに認知症の方がいて、またそのとなりに自立している人がいれば、とてもまともな介護はできません。もっと言えば、ホームの経営を考えても、要介護者は1ヵ所に固まっていたほうが、人件費ははるかに安くすみます。

 また、認知症になったときにホームから出されないためには、認知症の人のための介護居室が、一つの大きな生活ゾーンとして別に存在することが重要です。
 「介護居室は、プライバシー保護のために見せられません」というホームがよくあります。「グリーン東京」でも同じようなことはあります。ただ、「グリーン東京」では、すでに十数年前の入居者懇談会で次のような話がありました。介護居室を見なければ有料老人ホームの善し悪しは絶対にわからない、ついては真剣に入居を考えている人だったら、介護ゾーンを見学してもらってもいいではないか、という意見が入居者の皆さまから出たのです。ただし、入居者の部屋の中への立ち入りは厳にお断りいたしますという条件で、介護居室がある介護センターの見学を認めたわけです。

 介護居室で注意すべきは、相部屋介護ではないことが大切です。
 相部屋がよくない理由は、だれかが風邪を引けば、すぐに体力の弱った同室の人にうつるからです。たとえば、毎年冬になると、同じ特別養護老人ホームで5人、6人という方がインフルエンザで同時にお亡くなりになります。やはり、そうした特別養護老人ホームは4人部屋です。お年寄りは伝染病に弱いので、個室介護ほど優れるものはありません。
 「グリーン東京」でも、毎年、1人から2人、あるいは多いときで5人ほどインフルエンザになりますが、そのときには「申し訳ありませんが、お部屋から出ないでください」とお願いしています。このような形で、虚弱な身体の方の集合体である有料老人ホームでは、伝染病を防いでいるのです。

 また、4人部屋とか8人部屋で生活していると、自然と、他人に迷惑をかけないことがもっとも重要な日常生活のルールとなります。ラジオはイヤホンで聴いて音を出さないとか、できるだけ部屋の中を歩きまわらないようにすることなどです。歩きまわって同居人の目障りにならないように気配りをするのです。
 このため、相部屋ではベッドに寝たきりの生活になりかねません。筋肉は使わなければ日に日に衰えます。したがって、身の回りのことが自分でできていた人でも、相部屋で生活をしていると、数カ月で本物の寝たきりになってしまうことがよくあります。
 私は、平成2年に北欧の福祉を見学しました。相部屋など一つもありませんでした。なぜ、日本では相部屋があるのでしょうか。日本では、多人数部屋のことを「相部屋」という言葉で表現しています。相部屋とは、日本の福祉の悪しき専門用語です。事実を正確に伝えるためには、「雑居部屋」とか「タコ部屋」という言葉を使うべきでしょう。
 そういう言葉を使えば、恥ずかしくなって相部屋は自然となくなるはずです。

 また、日本では個室で介護するという基本的な発想が欠けていますから、福祉施設の規模を表す単位はベッド数だけです。「50床の特別養護老人ホーム」などという表現に統一されています。つい最近まで、相部屋が当たり前だったからです。私が見学したデンマークやスウェーデンでは、福祉施設の規模を表す単位は部屋数でした。相部屋など、私の見た限り一つもありませんでした。こういう福祉レベルの格差はどこからできてきたのでしょう。
 やはり、日本が経済大国になったあとでさえも、介護施設というものが救貧対策で建設されてきたという歴史があります。さらに、政府や財界が公的介護を嫌ってきましたし、それに何よりも自民党が道路建設を最後先にしてきたからです。

 また、日本では老人病院がこれまで介護を担ってきたということも大きな理由です。病院では、6人部屋、8人部屋が当たり前だからです。そのような過去の歴史を引きずって、今に到っているわけです。

 さらに言えば、介護居室として相部屋と個室の混合しているホームについては、よほど注意が必要です。たとえば、個室が10室、4人部屋が5室あって、30ベッド用意されていたとします。
 そんな場合、入居者本人もホームに対する苦情が多く、うるさい家族のいる人が個室を優先されてしまい、気の弱い人が相部屋になるということも考えられます。あるいはまた、入居して5年目に脳卒中で倒れたような人は個室になって、10年も経ってから要介護となった人は相部屋に移るというケースもあるかもしれません。
 なぜなら、入居して5年しか経っていないとなると、数千万円という入居一時金の償却がまだすべて終わっていませんから、ホームが相部屋に移すとなると入居者や家族との間に大きなトラブルが発生しかねません。ホーム側が入居一時金の多くを払い戻さずにすませたい、と考えるのは当然でしょう。
 それに対して、償却期間の10年が過ぎれば返戻金の問題は生じません。そこで、入居して12年も13年も経ってくると、入居者は気持ちがふさいでしまいます。「ああ、自分が車椅子の生活や認知症になったときには相部屋に回されるのかな」と考えはじめるわけです。それでは、人生の晩年が豊かなものであるとは決して言えません。


 
●有料老人ホームがホームベージを活用しない訳

 一度の見学では、有料老人ホームにいろいろな質問をすることも、すみずみまで調べることもできません。ついては、数回は見学してください。また、多数の有料老人ホームを見て回ることです。
 見学のときに調べていただきたいことは、車椅子の人が外出するときの付き添いサービスがあるかどうかです。これは介護保険の対象外のサービスですからお金は取られますが、そうしたサービスがあるということは重要です。そのサービスのためにより多くの職員を配置していることを示しているわけです。つまり、職員の人数が多いということは、経営に余裕があるか、良心的なホームであると考えていいのです。

 また、有料老人ホームの善し悪しを判断するうえで重要なことは、たとえば介護専用型ではなく混合型の有料老人ホームの場合、元気な人が半分は生活していることです。「グリーン東京」では毎月1回、入居者懇談会を開催しますが、入居者の皆さんから要望や苦情、質問をお聞きしています。人それぞれですが、やはり苦情をぶつけてくるのは健康な人がほとんどです。その意味では、健常な入居者と要介護者がいっしょに住んでいる混合型の有料老人ホームは風通しがよいと言えます。
 入居者懇談会については、見学の際にその議事録を見せてもらうことが大事です。箇条書きでさらっと書いてあるか、それともいろいろなやりとりが詳しく書かれてあるか、そこには大きな違いがあります。開催は毎月なのか、年に1回きりなのかも大きな違いです。そこから何がわかるかというと、ホーム側が入居者の声を開く耳をもっているかどうかということです。
 いくら入居者懇談会を開いて入居者の要望や苦情を聞いても、ホームとしてはできないものはできないのですが、しかし聞く耳をもっているか否かは、ホームに住んでいる入居者にとってみれば、老後を前向きに主体的に生きるうえで大きな条件となります。

 お風呂についても、有料老人ホームは特色をもっています。特別養護老人ホームなどでは、湯船は一槽しかありませんが、有料老人ホームの場合には、まず一つは、男性用と女性用に分かれています。もう一つは、浴槽が熱めのお湯とぬるめのお湯に分かれていることです。
 自宅にいれば、差し湯をしたり水で加減したりして、自分の好みの熱さでお風呂に入ります。それと同じで、熱めのお湯とぬるめのお湯に分かれていることは、お風呂に入ることの楽しさにつながります。温泉で有名な熱海には、さすがに温度がそれぞれに違う浴槽が3つある有料老人ホームもあります。
 では、なぜ温度の違う浴槽を用意しているのでしょう。それは、高齢者の場合、心臓の弱い人が多いからです。心臓が弱いと、42度では負担が大きくなります。有料老人ホームでは医師や看護師の目が行き届いていますから、健康な状態で入居してきた女性ならば、5人に3人が90歳を軽く超えて長生きされます。そして、その方々の体温は一度ぐらい低くなり、35度5分になっています。そういう人たちにとって、42度のお湯では熱湯に近いということなのです。

 最後に、ホームページを活用することです。
 現在は、もう何でもホームページで調べる時代です。現時点では「有料老人ホーム」だけで検索しても、全国の有料老人ホームの一覧表は出てきませんので、各々のホームの名前を入力して調べなければなりません。その点は、まだ不便だと言わざるを得ません。
 ホームページを見るときに重要なことは、公正取引委員会の景品表示法第4条1項3号に従っているかどうかということです。公正取引委員会は、ホームページの広告については非常に不祥事が多いので、次のような指導をしています。

 一つは、更新記録をつくることです。ホームページに「最新の商品」と書かれていても、それが三年前につくられた画面だったら「最新」ではありません。だから、「更新記録」ないしは「更新情報」があるかどうかに留意してください。

 二つめは、たとえば「送料は無料」と書いてあっても、他の画面に、「送料無料は東京23区に限る」という注意書きが小さく書かれているといった引っかけがあるということです。ですから、ホームページは一覧性が高いこと、つまり「サイトマップ」と呼ばれている、本で言えば詳しい目次のような一覧表がきちんとあるかどうかを確認してください。更新情報とサイトマップがあるということが、まずホームページで有料老人ホームの善し悪しを調べるときの前提となります。

 また三つめは、そのホームページがイメージ的でないことです。公正取引委員会は、ホームページもまた広告と認めています。それに、ホームページは無限に情報を載せられるにもかかわらず、具体的な情報が少ない有料老人ホームは要注意です。実際に、かなりの有料老人ホームがホームページをつくっていますが、公正取引委員会が定めた法律に引っかからないようにと、詳しい説明は表示せずに、「詳しいことはお電話でお尋ねください」となっていて、フリーダイヤルの番号が記載されていたりします。今の時代にホームページにいろいろと多くの情報を載せていないのは、その有料老人ホームが情報を積極的に開示できない、という事情をもっているからではないでしょうか。

 以上のような点に気をつけながら、いろいろな有料老人ホームのホームページから情報を得ることも有効な方法の一つと言えます。ホームページで有料老人ホームを調べられれば、しつこい営業マンが自宅にやってこないので便利です。情報量が多いホームページは良心的な有料老人ホームではないかと判断して、見学の対象としてもいいと思います。

 有料老人ホーム選びの極意の一つは、特別養護老人ホームをぜひとも見学しておくことです。というのも、有料老人ホームヘの入居を考えている人は、健康な入居者が多く住んでいる有料老人ホームばかり見て回りますから、本物の介護とはどういうものかを知りません。
 特別養護老人ホームの入居者は、重い要介護度の方々がほとんどです。見学すれば、介護サービスとはどういうものか、本当によくわかります。しかも、特別養護老人ホームは多くの介護職員や看護職員を雇っていますが、入居者に介護一時金や日々の介護費を請求していません。それでも経営が成りたっています。ですから、有料老人ホームの介護料金が適正かどうかも正しく判断できるようになります。

 どうか、何とかつてを頼って、特別養護老人ホームを見学しておいてください。自治体が運営している特別養護老人ホームでは市民ボランティアが働いています。できればボランティアとなって、2、3日働いてみてはいかがでしょうか。単なる見学よりも働いてみるほうが、老人ホームの裏側まで理解できます。
 自ら働いてみる。
 そこまでして初めて、施設での介護とはどういうものかが理解できるのです。有料老人ホームを選ぶということは、自分自身の老後を幸せにするか不幸にするか、まさに真剣勝負ということです。





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