料金
会社概要経営理念
 
  ■有料老人ホーム・グリーン東京 強さの秘密(日経ヘルスケア21、別冊)

Part2 つねに最強を目指す!有料老人ホーム経営の極意
        −「グリーン東京」社長 滝上宗次郎−


第2部 絶え間ないグリーン東京の経営革新
    省庁の草狩場と化した有料老人ホーム市場


 20年にわたる経営改革の核心を紹介する。有料老人ホームは、21世紀前半の超高齢社会の有り様を代表するだけに、厚生労働省が野放し行政を続ける間に、他省庁から相次いで法規制が打ち出されて、草狩場と化した。これほど、いくつもの省庁から注目されている産業も珍しい。それに対して、私はこの8年というものは、ほとんどの役所の委員会から身を引いて、ひたすら有料老人ホームに対する法律をその法案作成段階から情報を入手して徹底分析し、先手先手で万全の対策を講じることにエネルギーを費やした。

 
【第2部目次】
・有料老人ホーム経営とは「超」長期戦
・売上げの前倒しを是正
・業界を一変させる90日のクーリングオフ制度
・顧問弁護士は終身利用権を否定
・質を落とさずに「2対1」介護に移行
・脱介護保険の経営を目指して
・有料老人ホーム経営とはスケールメリット
・終身借家権の誕生で揺らぐ終身利用権
・消費者契約法との出会い
・老人福祉法の功罪
・おわりに
■『グリーン東京 強さの秘密』 目次へ戻る
〔プロローグの目次と本文〕へ
〔第1部の目次と本文〕へ

 
有料老人ホーム経営とは「超」長期戦

 第1部で述べた、この20年の経営を振り返れば、要は有料老人ホームとは経営単位が超長期の山あり谷ありの難事業だと言うことができる。しかし私は、民間の有料老人ホームが日本に先行して発達していたドイツやアメリカの法規制を研究していたから、「入居者保護」「入居一時金」「終身介護」といった大きなテーマに対しては、流れが読めていた。
 むしろ、こうした長い期間にわたって経営者として、全権を握り続けたことのほうが重要であった。こうした経営者が存在するというのは、オーナー経営者を除くとそうある話ではあるまい。そして、経営者としてスタートした時が34歳であったから、若年のために揺らぐことのない信念があった。それは、「有料老人ホームの単年度決算は実態とは大きく異なる仮の姿。有料老人ホーム経営は超長期の戦いだ」ということである。制度や通達が変わるたびに業績は乱高下しかねない。となると、有料老人ホームを専業にして株式を上場するのは困難が多いとも考える。
 まずは、入居一時金から述べたい。一般的に、有料老人ホームの経理面での特徴は、何よりも高額な前払金の存在である。それについても、私は88年の「日経ヘルスケア」別冊で言及している。
 「一般に、有料老人ホームは入居金の償却期間を10年間と比較的短期に決めているから、毎年の決算は仮決算にすぎない。こうした利益を前倒しした決算方法は税務署からみれば稀に見る優等生であり何ら異論はないが、この事業の本質である健全経営からは踏み外していることを、ホーム経営者は肝に銘じておかなければならない」。
 入居者の余命にあわせて、20年前後で均等に売上げにあげるべき入居一時金を、前半の10年で使い切るのが一般的なホーム経営の実態であった。そのため、前半に大きな利益をあげて、利益の半分を納税してしまう。これでは、後年の経営がもつわけがあるまい。
 しかし、なんと上場企業の子会社である有料老人ホームのなかには、子会社の社長が自分の任期中の業績だけを第一に考えて、入居一時金の売上げが立たなくなる一方で要介護者が続出する十数年後の収益の悪化については、考慮しない経営者までいた。私は、サラリーマンによる無責任経営だと驚いたものだし、また親会社の担当者は有料老人ホームについてまるで知らず、単年度決算の黒字で満足していたということである。
 日本人の寿命は延び続けている。現在の平均寿命は88年当時と比べると、男で4歳、女で5歳も延びている。しかし逆にこの間、当業界は総じて償却期間を短くして売上げの前倒しを顕著にしてしまった。さらに初期償却分である「頭取り」まで始め、その後は、入居一時金に占める頭取りの比率を拡大してきた。こうして見ると、業界は全体としては明らかに経営は危機ラインにあるのだろうし、勝ち組、負け組という二極化は相当に進んでいると見てよいだろう。


 
売上げの前倒しを是正

 私は20年間の経営において、エネルギーの大半は売上げの前倒しを是正することに傾注した、と言っても決して過言ではない。
 理由はこうである。貸借対照表とはバランスシートとも言うが、何が右側と左側でバランスしていなければ、いけないのか。それは、右側に計上している「入居一時金の預かり金」と左側の償却資産である。最良なのは、双方がバランスよく減少していくことである。逆に最悪なのは、「入居一時金の預かり金」が償却されて、売上げに計上されて、利益となり、納税されることである。つまり、過去の入金であって今年度のキャッシュフローとは無関係な「入居一時金の預かり金」が、今年度の利益となって現金にて納税されることは、厳に避けなければならない。ちなみに、現在の日本では、企業経営の巧拙とはキャッシュフローを指すが、有料老人ホーム経営では昔からキャッシュフローが重要なのである。
 さらに、有料老人ホームの決算書で重要なのは損益計算書ではない。貸借対照表のなかに、将来の莫大な負債が隠されていれば、いつか倒産の危機となるからである。したがって、介護保険制度が導入されるに当たっては、旧厚生省がアドバルーンを上げた1993年から、当社は介護一時金の全額返還の準備にかかり、まずは新規入居者から介護一時金の制度そのものを廃止したのである。
 売上げの前倒しを是正する手段は、第一に、入居資格年齢の引き上げである。それをしなければ、いつか私はグリーン東京をつぶしてしまう、と考えていた。当初60歳だった入居資格年齢を65歳、70歳、75歳へと15歳上げることができた。だが、入居資格を厳しくしたから当然に客足は遠ざかった。10年後、20年後の経営にも責任を持たねばならないオーナー経営者として、必要に迫られた決断であった。
 売上げの前倒しの象徴でもある「頭取り」も、だんだんに小さくしていった。幸運にも、介護保険が始まると、その分の売上げが増えたから、それに合わせて頭取りを廃止できた。
 ところが、売上げの前倒しを是正するために、償却期間をバブル時に比べて3〜5年延ばしたときは、そのお陰で収益は見事に落ちた。
 経営単位が超長期である有料老人ホームでは、5年程度の期間は短期である。その5年程度の間に、「頭取り」をゼロにしたり、償却期間の延長などをすれば、売上げが急減してしまい、人に見せられるような決算書はとても作成できない。それを避けるために、「頭取り」の廃止や償却期間の延長に、グリーン東京は20年という長い歳月をかけたわけだ。オーナー経営で、かつ経営者としてのスタートが34歳であったから、厚生労働省の指導指針にある「最低30年以上の業績の“計画”」を自らが真剣に“実践”せざるを得なかったと言っていいだろう。
 この償却期間の問題については、88年、米国で入居資格が80歳以上という健常型の有料老人ホームを見学して、ただただ驚愕した。そこの経営者は「70歳では、入居期間が長期になりすぎて、一時金方式の経営は難しい」と私に語った。ちなみに私のホームでは、介護をよくするので余命が延びるために女性の平均寿命は93歳ぐらいである。
 経営単位が超長期の事業であり、一片の通達によって業績がぶれることも、有料老人ホームの経営を困難にしている。例えば、日本の税制はわずか5年(今は7年)を超えると欠損金を利益と相殺するのを禁じている。そもそも中期的に損益がぶれやすい有料老人ホームを日本で経営するのは不向きなのかもしれない。
 それを嫌って、近年は介護専用型への参入が圧倒的に多いのだろう。介護専用型は広い土地を要しないという点でも、日本に向いた経営形態と言える。
 しかし、実際に入居する高齢者からみると、介護専用型か否かは天地の開きがある。介護専用型とは、だいたいが家族主導で要介護の老親を入居させるホームである。そのために、家族は価格の低さを重視する。供給側も、ボリュームゾーンであるから価格戦となる。
 一方、高齢者本人が主体的に自身の財産を考慮して入居を決断するのが、当ホームのような健常なうちから入居できるホームである。そのようなホームは経営ははるかに困難ではあるが、価格戦に巻き込まれることなく、経営を維持できると考える。私は、今後は、健常なうちから入居できる有料老人ホームのニーズが高まる一方で、供給は恒常的に不足してくると考える。


 
業界を一変させる90日のクーリングオフ制度

 近年の有料老人ホーム設置運営標準指導指針はよくできている。改正されるたびに、少しずつ良くなってきた。事業収支計画については、有料老人ホーム経営のポイントである「一時金の償却年数は平均余命を勘案し決められていること」となっている。つまり、当ホームの入居資格は75歳からではあるが、それでも指導指針より数年は短いということである。
 この3月の指針の改正では、厚生労働省は業界の窮状を勘案したようだ。売上げ急減を避けるために「頭取り」の存続を容認するものの、契約後90日以内の解約ならば前払金の全額を入居者に返還することを、この7月からは、新たな指導指針が要請しているからである。一般の高齢者には、有料老人ホームに2〜3日の体験入居をしたぐらいでは、ホームの内容をとても理解できるものではない。入居して1〜2カ月もホームに住んでみて初めて、広告と中味の落差や、寮母や看護師の「職場定着率」といった介護の優劣が入居者にもようやくわかってくる。
 となると、新規入居者がホームの実態や実力をわかってくれば、現状のサービス内容では90日以内の解約が続出するだろう。したがって、解約を食い止めるために、当業界は質を高めたり、誇大広告の浄化に向かわなければなるまい。
 実現すれば、当業界の将来利益は大きい。高齢な消費者は安心してシルバー市場に大量に参加してくるから、現在10万室の有料老人ホームが、100万室や200万室に拡大していくことだろう。今でさえ、300万人の要介護認定者が在宅にいて身内の虐待を受けるものが多く、高齢者虐待法を施行せざるを得ない状況にある。そして、今後も年々30万人もの要介護認定者が増え続けるというのに、公的施設の増設は財政悪化を考えれば微妙だからである。


 
顧問弁護士は終身利用権を否定

 88年の春、訪問先のアメリカで学んだことは多かった。アメリカ人はオープンで、他国の人にノウハウを気持ち良く教えてくれる。たとえば終身介護を実践するには、介護センターを併設させて、健康な入居者と要介護者の生活空間を分けること、というアドバイスもまた強烈に貴重であった。私はすぐに納得できた。確かに、日本でもバブル以前から経営している有料老人ホームでは、要介護者は特別養護老人ホームに移り住んでもらうことで、健常者と生活空間を分けて終身介護を実践していた。それこそが、健康な入居者へのニーズに応え、そして人件費の塊である要介護者への介護サービスを合理化していく唯一の手段だからである。
 私は介護センターの最終イメージが完成したので、日本に帰ると、顧問弁護士に「要介護となったら介護センターへ移り住む」という条件を盛り込んで、入居契約書を手直ししてほしいと依頼した。そのときに言われたことは、「滝上さん、これは借家権だから、介護居室は一般居室と同面積にしてください。でなければ、居室の変更はトラブルとなる」。確かに、有料老人ホームの入居者は居室の権利を子どもに相続できないという点では、正確には借家権とは言えない。しかし、それだけの微妙な違いだけで「終身利用権」などという六法全書にもない言葉を使っていると、いつか大やけどをしますよ、という忠告であった。
 鉄筋コンクリートの建物は一度建てたら改築は効かない。しかも、多数の高齢者が住み続けながらの改築は相当に困難を伴う。そのため将来、「終身利用権」が「借家権」へと変更されたら目もあてられない。熟慮した結果、弁護士のアドバイスを有り難く受け入れることとした。しかしそのお陰で、延床面積3500m²の介護センターの設計図は大きく書き換えられて、わずか41室の介護居室(32m²)しか得られなかったのである。従来の一般居室(ただし、50m²の広めの居室も10室ある)と同面積にしたことと、一般居室と同じように介護居室も南東、南西に向けて日当たりを考慮したためである。そのため、「無駄」と表現してもいいくらいに共用部分は広くなってしまった。その代わり、各階に広い共用部分を得たことから、後年になるにしたがって認知症の入居者が予測をはるかに超えて増えたものの、当ホームは終身介護を続けることができた。
 プロローグにて、私は本館は当初の126室から102室まで減らしたと述べた。減らした理由は、空いている居室をどんどん共用部分に代えていったことと、借家権を前提にした経営に代える必要があったために、32m²以下の狭い居室を一人ひとりの入居者と交渉して撤去したからである。


 
質を落とさずに「2対1」介護に移行

 87年に始めた介護センターの設計は、どんどん長引いた。設計を依頼した(株)梓設計は、バブル時で数多くの設計をこなす必要があったにもかかわらず、全力でホーム職員の動線をいかに短くするかに苦心してくれた。とにもかくにも、有料老人ホーム経営とは人件費との戦いである。とはいえ、人材の質は落とせないから、人数の多少が勝負である。設計が長引くと同時に、バブルも大きくなった。建設費は3ヵ月ごとに坪当たり5万円も10万円も高騰していったが、設計図はなかなか完成しなかった。とうとう地下1階、地上1、2階の3カ所で、本館と廊下で接続する介護センターの設計図ができ上がった。特に、二つの建物をつなぐ地下の廊下は職員専用とした。着工したのは昭和が幕を閉じた平成元年の春であった。
 介護センターは翌年の90年8月に開設した。しかしながら、その数カ月後にバブルは崩壊して、高齢者の自宅が高値では売れないために、予約中の20室が続々とキャンセルされてしまった。あまりにもミゼラブルで、私はさっさと設計を終えておけばよかったと深く後悔した。
 しかしながら、それ以上に得たものは巨大であった。期待をはるかに超えて介護費用は激減した。それまで、要介護者1名に対して、介護職員、看護職員が0.9名も張り付いていたが、介護センターでの集中介護と抜群の動線の良さによって、従来より介護レベルを高めながらも0.55名まで引き下げることができた。私は、これでようやく当社も生き残れると思ったものである。有料老人ホームの場合、人件費の圧縮とは「人材の質」を落とすことではない。動線を短くして、人数を減らすしか他に方法がないのである。設計が長引いたために建築単価は坪30万円も高まったが、その分は人件費の引き下げでわずか7〜8年で取り戻せた。
 さらに、00年に介護保険がスタートした時には、当ホームは相当に手厚い介護であったにもかかわらず、人件費の9割を保険収入で賄えることができ、介護一時金を無理なく返還して、入居者との軋轢を避けられた。その後、景品表示法第4条第1項第3号に有料老人ホームが指定された時も、介護費の表示においては、当ホームに対して公正取引委員会が介入する余地はなくなった。
 こうして、厚生省の介護保険構想が確実になった93年以来、当ホームは介護一時金を徴収することを廃止して売上げを大きく落としていたし、介護保険がスタートする前年度には受領していた介護一時金のうち健康な入居者に対しては全額を返還したのである。その結果、入居一時金の償却期間の長期化や入居資格年齢の引き上げとも相まって、当社は債務超過に陥ったが、何ら躊躇はなかった。そもそも有料老人ホームのあるべき経営方針とは、将来の負債を背負わないことに尽きるからである。それこそが、20年や30年という経営単位である有料老人ホームにとって真の健全経営である。そして債務超過の責任を取り、私一人で資本金を2000万円から4億1000万円に増資した。それに要した資金は亡き父から譲ってもらった財産だった。


 
脱介護保険の経営を目指して

 介護保険がスタートすると、当ホームはそれまで巨額の赤字を続けてきた介護・看護コストの収支がほぼトントンとなった。有料老人ホームの経営とは、人件費問題が解決すれば後は楽である。すなわち前述したように、入居一時金の預かり金が年々償却されて、売上げに振り代わり利益となると、「納税」という多額のキャッシュアウトが発生してくる。
 しかし近い将来、介護報酬は確実に大幅に下げられるだろう。そこで、この2月末日の決算期を終了年度として、6カ年計画を立てて、介護保険がスタートした年から建物、設備、敷地に対する大幅なリニューアルを開始した。本館は坪当たり約30万円の改装費によって、格段のグレードアップを図ることとした。
 施設全体を豪華にしたことの狙いは、第一に脱介護保険である。最初から、私は介護保険とは財政的に砂上の楼閣だと考えていた。したがって、「保険あって介護なし、という批判を恐れたための大盤振る舞い」(ある厚生官僚の言葉)の保険報酬を得ている間に、売上げの中味を保険報酬から住宅収入にシフトする必要があると考えたからである。そう考えていた事実は、当時の雑誌にも載っている。介護保険がスタートした直後、医学書院の月刊誌『訪問看護と介護』00年10月号で、私はこう語っている。編集部からは、有料老人ホームでは宿泊代と食費を保険から外されていたので、報酬額が在宅や特別養護老人ホームに比べて一人当たり月に10万円低いことについて、私に不満があるかという質問であった。
 「要介護5ならば在宅も施設も36万円なのに、有料老人ホームは26万円です。これって、確かに差別ですね。お年寄りは同じ保険料を納めているのに。……しかし、私は黙っていました。理由の一つは、長期的にみて施設の報酬額から宿泊代と食費が削られていくと考えるからです。これは介護の保険であって、措置による収容のためのものではありません。もう一つの理由は、報酬額が安かったために、株式を公開している大手事業者が皆、在宅ビジネスのほうに走っていってくれたからです。36万円と4020円(1時間未満の訪問介護報酬)に目がくらんだようです。……たとえ26万円と安くても競争を回避したほうが得策だと経営判断しました」(カッコ内は、本稿にて付け加えたもの)。
 この雑誌に私は半袖のポロシャツ姿で写っている。取材は夏で介護保険がスタートした直後である。なぜこうも最初から、私は介護保険報酬の減額を正確に予測していたのか。それは、この小論でも述べているように、私は88年の春、アメリカを視察してメディケア・メディケイドの凋落を見ていたからである。さらに97年12月、臨時国会で介護保険法が成立したときは、その前月は山一證券、北海道拓殖銀行などの倒産があり、日本経済は奈落の底に沈んでいった。常識というものを大切にしてものごとを考えるのが有料老人ホームの経営者の役割であるし、確かに常識から考えると、介護保険は無理そのものの船出だった。その時の景気悪化は、4月に消費税を3%から5%に引き上げたことなどを背景にして、9月から生じた。
 まだ景気が拡大していた97年4月4日、私は介護保険法を審議していた国会に参考人として呼ばれて、こう発言している。「介護保険がスタートすればすぐにわかることでありますけれども、介護サービスの費用はすぐに10兆円を超えていくことでしょう。85歳以上の人は、2人に1人が何らかの介護を要するようになります。その85歳以上の人は、この10年で何と2倍も増えているのです。さらに超高齢者が増えていくのです」(衆議院議事録より)。その後も、超高齢者の増加は加速している。現在100歳以上の高齢者は3万人だが、8年前は1万人だった。


 
有料老人ホーム経営とはスケールメリット

 施設を豪華にした狙いは、第二に、建物全体の改装を進めることで、同時に本館にあるアスベストを撤去することであった。幸い100%の吹き付けのアスベストはなかったが、数%含有している建材が多かった。霞ヶ関の官僚とは、不祥事が社会問題化するまでは放置していることが少なくない。しかし、それに事業者が甘えていると社会問題化したときはすでに死活問題だから、よくよく注意が必要である。アスベストについても、厚生労働省はあまり問題視していなかったが、私は介護センターを設計した梓設計からは注意を受けていた。わずか数%の含有で飛散することはなく人体には害悪がないとわかっていても、アスベストが社会問題となれば、高齢で病弱な入居者は怖がるし、新規の入居者の獲得も困難となってしまう。逆に撤去すれば、当ホームの姿勢を示す絶好のチャンスでもある。つまり、有料老人ホームとは徹底して客商売なのである。幸運にも昨夏、アスベストが社会問題化した時にはすでに9割は撤去していた。
 第三の狙いは、グリーン東京の敷地内にある職員宿舎を施設の外に移転することと、数年後にもその跡地に40〜50室の介護棟を新設することにある。介護施設とは、チェーン展開が利益率を大幅に上昇させることはない。しかし、一施設の大型化によるスケールメリットはすこぶる大きい。それは、厚生労働省が発表している特別養護老人ホームの利益率をみればわかる。入居者が30人の特養はほとんどが赤字。100人ならば、10%を超える利益率である。これからは保険報酬が下がり続けるから、小型の有料老人ホームでは人的対応が苦しくなる。利益率を維持するためには、規模の拡大が不可欠だという経営判断である。
 こうした規模拡大だけが理由ではない。当ホームではさらに認知症の入居者は増えるであろうから、数年後には既存の介護センターでは介護がやりにくくなるという懸念がある。新しい職員宿舎は、当ホームから1500mのところに土地を確保できた。この小論が世にでるころには竣工しているはずである。つまり、既存の職員寮を撤去することで、数億円の土地を敷地内に入手できるというわけである。
 要は、有料老人ホームを建設するときの大きな注意点は、隣接地に更地を確保しておくことである。20年ごとに、有料老人ホームの建物に対する社会のニーズはどのように激変するかわからないからである。


 
終身借家権の誕生で揺らぐ終身利用権

 高齢化という社会の要請に応えて、01年、子どもへの相続を想定しない「終身借家権」が国土交通省の法律で作られた。それでもなお現在、ほぼ全社が「終身利用権」という弱い権利しか入居者に与えていない当業界は、まるでタイタニック号に業界全体が乗っているかのようだ。正しい経営方針とは、今後に制度化されてくる団体訴訟によって、「終身利用権」や「頭取り」が消費者契約法に違反しているという判決が近い将来にも必ず出る、という前提を置くことではあるまいか。
 というのも、すでに公正取引委員会は景品表示法第4条第1項第3号に有料老人ホームを指定して、その告示第5項では、「終身借家権」を前提として広告ルールを詳細に定めている。例えば、入居者が要介護となって介護居室へ住み替えるとき、居室の面積が従前よりも小さくなる場合は、その不利益を明瞭に広告するように定めたのである。
 この数年で、立て続けに法律が制定された。増え続ける高齢者に対して、自己責任と自己負担で、民営化された医療サービスや介護サービスを購入するようにという流れが、今の日本である。となれば、もはや「民営化」政策と「消費者保護」政策とは車の両輪であることは自明であろう。
 現に今年に入ると、消費者保護は一段と急ピッチである。06年3月3日に国民生活センターから出版された『有料老人ホームをめぐる消費者問題に関する調査研究』の206ページ目には、「高齢者居住の安定確保に関する法律は、終身建物賃貸借制度において1年間のクーリング・オフ類似の制度を設けている」と述べている。そして、国土交通省から出向していた有料老人ホーム担当の女性補佐は、厚生労働省を去るにあたり最後の仕事として、3月31日に発表した指導指針のなかに90日のクーリング・オフを盛り込んだ。
 すでに私立大学の前払いの授業料は、合格者が入学を辞退したときは消費者契約法に則り、その全額を返還しなければならない。ならば、有料老人ホームの頭取りも同様に考えられよう。私には、90日以内の解約にクーリング・オフ制度を設けた新たな指導指針は、将来起こるであろう「頭取りは無効」と言う判決に対して、厚生労働省が事前に用意したものと思えるのである。
 同時に、これまでは相部屋介護を容認していたが、今回改正された指導指針はそれを廃止した。すでに、02年3月19日、厚生労働省の老健局振興課は在宅介護において相部屋とする場合は介護保険報酬を付与しない、と通知していた。報酬ゼロという厳しい通知に反して、有料老人ホームだけは介護保険法では「在宅」に分類されていながら、相部屋での介護を容認されていた。しかし、もはやこれ以上の例外扱いは行政としても不可能なのだろう。でなければ、療養病床の有料老人ホームへの転換に対して、多床室を個室に代えるよう強制していることと矛盾してしまう。
 こうしてみると、介護センターの建設に当たり、介護居室の広さを32m²の個室として、借家権を前提として、入居契約書を切り替えていた当社の経営戦略は100%正しかった。


 
消費者契約法との出会い

 本年3月30日には厚生労働大臣は、多発する有料老人ホームの消費者被害に対しては消費者契約法を用いて対応する、と発言した。入居者にとっての一方的な不利益は、たとえ入居者が契約した後でさえも、その条文は無効とするというのが、消費者契約法である。幸い、グリーン東京の入居契約書は消費者契約法に従って作成されている。その理由として、入居一時金の対価の本質とは終身利用権ではなく借家権だと喝破したように、当ホームの顧問弁護士のリーガルマインドは抜群に良好である。
 理由は、もう一つあった。96年、橋本内閣は6大行政改革を行った。その際、経済審議会に6つの部会を作り、私は「医療・福祉作業部会」の座長に選出された。その作業を経済企画庁の建物のなかで行っている時に、同じ階では消費者契約法の草案が国民生活審議会で議論されていた。経済審議会とは、当時、200以上あった審議会のなかの筆頭であった。座長の私には、車と運転手が用意されたほどである。そして、私がまとめた建議書を提出する相手は総理大臣であった。そのため、消費者契約法の草案も容易に手に入れられたし、事務局から内容について懇切に解説していただけた。
 かなり骨抜きにされた現在の法律よりも、当時の消費者契約法の草案は消費者保護に手厚かった。ヨーロッパ諸国の経済活動が統合されていくなかで、各国にあった消費者契約法が「EC指令」という形で一本化された。その日本版が、当時の消費者契約法の草案であった。私は、これは確実に法律となり、ピンポイントで有料老人ホームの入居契約書を狙い撃ちにすると考えた。有料老人ホームの入居契約書とはどこまでもホーム側に都合よくできているし、契約相手は社会的弱者である高齢者である。
 そこで再び、顧問弁護士に当社の入居契約書を見直してもらうとともに、介護保険制度がスタートするまでに介護一時金を全面廃止するという経営方針については、より強固な経営意志をもって一段と強くアクセルを踏み込んだのである。


 
老人福祉法の功罪

 なぜに当社は革新経営を続けて、独走を続けることができたのか。いやむしろ真相は、以下のような事情から、他社が当社に追随してこなかっただけなのである。
 90年、仰天することが起こった。旧厚生省は、老人福祉法を改正して社団法人全国有料老人ホーム協会を指定法人としたのである。その第31条では、全国有料老人ホーム協会の義務として、その会員である事業者の育成指導ばかりか、入居者からの苦情処理まで担当させた。業界団体に対して、老人福祉法という福祉の根本法律で消費者保護の特権を与えたのである。例えば国民に対して、「原子力発電の安全性について疑問があれば、電力業界にお聞きなさい」という法律の制定に等しい。まさに、天にツバを吐く立法であった。こうして、企業の存立基盤である顧客志向が薄まり、有料老人ホーム業界の発展の芽は摘まれてしまった。
 私は、業界団体に法律で監督権限まで与えてしまったら、今後は不正のやり放題になるだろうと考えた。しかし、事態はもっともっと悪い方向に展開した。これを契機にして、業界団体は落伍者(倒産)を出さないことを第一の行動規範としたからである。そのため、質を高めるという競争よりも、バブル崩壊後の長い苦境も手伝って、一番低いもののレベルに業界全体を合わせるということになった。同業他社がついてこれないような高いサービスはするな、つまり出る杭は打たれるというわけである。
 こうして護送船団方式をとったために、次々と新たに現れる消費者保護を重視した法律に対して後手を引いてしまった。例えば業界団体のなかでは、不当表示とは公正取引委員会との見解の相違という結論であったり、相部屋介護が是認されたり、頭取りや終身利用権の正当性が研究対象であった。そのため、当社は加盟しながらも業界団体には近寄らないようにした。「つねに最強を目指すしか生き残る手段はない」ことを経営方針とする当社にとって、ちっともいいことはないからであった。
 業界団体に個々の有料老人ホームを間接統治させるという老人福祉法は、有料老人ホームの質の向上を何よりも阻害した。それは、誇大広告など消費者被害の拡大に如実に現れている。この結果、監督官庁以外の役所が動き出す。福祉の民営化はどの役所にとっても命題であり、自己の役所の権益を拡大できる草狩場なのである。すべての役所が高齢者福祉を担当しろという、86年の「長寿社会対策大綱」は当時の厚生大臣ではなく、閣議決定である。
 公正取引委員会は97年には、ホーム協会の中心的な加盟ホーム5社を誇大広告で警告した。そして後に、景品表示法第4条第1項第3号に有料老人ホームを指定することになる下地を作ったのである。つまり同年6月、公正取引委員会はホーム協会に対して、加盟ホームが消費者に開示すべき情報を自ら定めて自主的に広告するように求めた。しかし、公正取引委員会をとても満足させるような内容のある広告基準は作られなかったから、とうとう公正取引委員会は景品表示法の第4条第1項第3号という伝家の宝刀を抜いたのである。
 冒頭に述べたように、有料老人ホームに対する当初の厚生行政の関与は皆無に近いものであった。しかし、21世紀に入るころから、後追いで入居者保護を図る法律が他省庁で次々と成立した。そのような近年の流れに対して、「不祥事は業界団体に任せる」という老人福祉法のお陰で、有料老人ホーム業界は対応に後手を引いたのである。
 他省庁が虎視眈々と有料老人ホームに狙いを定めている時に、旧厚生省は、増え続ける消費者被害に対処するどころか、逆に老人福祉法を改正して一段と責任を回避してしまった。福祉の民営化、つまりは有料老人ホームの拡大を目的の一つとする介護保険が始まる直前、旧厚生省は老人福祉法第29条を改正して、それまで「厚生大臣」と「都道府県知事」にあった行政における監督権限から、「厚生大臣」を外してしまったのである。
 ちなみに、この3月31日に発表された有料老人ホーム設置運営標準指導指針にかかわる通知には、すでに厚生労働大臣には法的に監督権限がないから、都道府県知事に対して、本通知は技術的な「助言」に該当するものである、と奥歯に物がはさまった表現である。
 さらに混迷は続く。介護保険法が97年に成立すると、重複する介護一時金を返還する問題が発生したが、結果はどこも同じレベルの低い返還率にとどまった。当時の私は、返還率の高さがそのまま各社の格付けになると考え、いったい何社が100%を返還するのか興味があった。しかし、蓋を開けたら、グリーン東京だけだった。その共通に低い返還率を見て、いかにバブル崩壊後の長期不況が有料老人ホーム経営を悪化させたかを如実に知ったのである。
 3年後の09年の報酬改定では、有料老人ホームへの保険報酬は大幅に減額されるだろう。いずれは、自己負担も1割から2〜3割に引き上げられるのだろう。さらには、「要支援」から「要介護2」までの保険給付は止まるかもしれない。となれば、それらは入居者の負担となるが、介護一時金を徴収している場合、経営側はいったいどのように対処するのだろうか。
 介護一時金とは、入居後には追加の介護費用は一切いただきません、というのが当初の趣旨であったはずである。当社が100%返還したのは、それが最高の格付けであると考えた以上に、バランスシートから将来の介護負担という莫大な人件費を除外するためであった。


 
おわりに

 この小論を終わるに当たり、行政について付言する。有料老人ホーム行政は、特養の利用を黙認したり、業法を作らずに指導指針で対応するなど、あいまいに終始した。そうした野放し行政の結果、景品表示法や消費者契約法、終身借家制度など他の省庁や公正取引委員会の介入をみた。老健局振興課の業務は介護保険法が施行されてから膨大になり、有料老人ホームの担当課長補佐は国土交通省の指定席ともなった。
 しかも、介護保険法は有料老人ホームを在宅に分類している。そのため、この4月から医療制度の大改革のなかで、老健局ばかりか保険局の干渉も受けるようになった。つまり、有料老人ホームに対する「往診」について、大幅な制限が加えられた。局あって省なし。有料老人ホームはこれからは異なる二局の傘下となるのでは、やり切れまい。
 こうして有料老人ホーム経営とはあまりに複雑怪奇となったが、その点も、この本稿では詳しく解説したと思う。行政が複雑だから、特定官庁の特定の局から天下りを受けても、効果はあるまい。小手先の経営はやめて、王道を歩むほうがいい。そして、医療制度と福祉制度の双方への理解を深めることである。
 私が経営者となって20年が過ぎた。今や療養病床が消えていくという荒療治に見られるように、時代は一変してしまった。公的な社会保障制度そのものの維持が難しくなったし、10年も続く介護には家族は耐えられまい。総量規制がかかったとはいえ、逆に時代は有料老人ホームを大いに期待している。現在、有料老人ホームはわずか10万室を数えるのみであるが、これから100万室や200万室を展望するとき、新たに画期的な経営手法をもって、大資本の新規参入が多数に上るのだろう。改めて、この小論が役立つことを渇望する次第である。






株式会社ボンセジュール・バリエ

Copyright BONSEJOUR VARIE CORPORATION. All rights Reserved.