■医療・福祉ワーキング・グループ報告書
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経済審議会行動計画委員会
医療・福祉ワーキング・グループ報告書
平成8年10月9日
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|[座 長]
|滝上 宗次郎
| (グリーン東京社長)
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|中条 潮
|(慶応義塾大学商学部教授)
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| 得本 輝人
| (日本労働組合総連合会副会長)
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|グレン・S・フクシマ
|(在日米国商工会議所副会頭)
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◆はじめに
21世紀は、少子・高齢化によって、経済成長が鈍化する一方、社会保障費の増加が必至である。国民負担率の過度の上昇は、貯蓄率の低下、労働参加率の低下などを通じて、経済成長に対しマイナスに作用する。高齢化の進展に伴って社会保障費が膨張すると、空洞化の進展などとも相まって、経済成長力の大幅な低下を招き、結局は適正な水準の社会保障の維持が困難になる懸念がある。国民負担率の過度の上昇を抑えるために、社会保障の改革、とりわけ、その大宗を占め、国民生活の豊かさ、安心を支える医療・福祉分野の改革を進めることは喫緊の課題である。
本報告では、医療については、「効率的でかつ国民のアクセスが容易な医療サービスの提供」を目指して、また福祉については、「国民が安心して暮らせる福祉社会の実現」を目指して改革案を提示した。
そのために本報告では、次のような点に留意して取りまとめを行った。
第1は、市場メカニズム、民間活力の活用と、自由な市場には委ねられない分野とのバランスである。今後、福祉サービスには多様なニーズが生じてくることが予想され、医療についても出来るだけ効率的な供給が求められることとなる中で、医療・福祉分野においても、出来る限り市場における競争原理を作用させ、民間活力を最大限利用していくことを考えていく必要がある。しかし一方では、人が生きていく上で最も基礎的なニーズを満たす医療・福祉については、弱者に対する配慮の必要性等の点で必ずしも市場メカニズムのみに委ねることは適当でない分野も多いことに留意した。
第2は、「透明性」の確保である。市場メカニズムに委ねることが難しい分野については、制度運営プロセスが透明であり、国民に十分な情報が提供されることが必要である。
当報告書においては、経済構造改革の観点から、医療・福祉分野の問題点、諸課題を抽出しているが、その範囲の広さゆえ、ポイントを絞り、早期に重点的に改革が必要とされる点について提言を行っている。当報告書がさらなる広汎な議論の用に供されることを期待する。
◆第1章 高齢化と医療・福祉
1.少子・超高齢社会の到来
少子化のスピードが加速度を増している。昨年の合計特殊出生率は、全国平均で1.43人である。これを日本の将来の先行値を示しているとみられる東京都でみると1.11人である(注1)。「中位推計」においては、21世紀初頭に1.8人に回復するという見込みが示されている(注2)が、現状では出生率はこれを大きく下回ることが予想されており、現に、平成7年(1995年)の全国平均の合計特殊出生率はつい最近まで1.50人と予測されていた。政府の将来計画は「中位推計」を前提としており、そこでは平成22年(2010年)が人口のピークと予想されているが、現状のまま推移すればピークはさらに早まる。少子・超高齢社会は現状の予測を上回り、「低位推計」に迫るペースで到来しようとしている。
(注1)
厚生省「人口動態統計(平成7年)」都道府県別にみた合計特殊出生率(参考1)
(注2)
経済白書 平成7年版 第3−2−1図 厚生省人口問題研究所の各回人口推計における前提値の推移(参考2)
2.高齢化と医療・福祉における課題
日本の高齢化の特徴は、世界に類をみない速度とその到達点の高さである。合計特殊出生率の回復を見込んでいる「中位推計」によっても、平成22年(2010年)頃には世界最高の高齢化率に達すると予想されていることは上述のとおりである。高齢化の進展につれ、平成7年度(1995年度)、65兆円と推計される社会保障給付費は、平成12年度(2000年度)は、現在の国家予算を上回る87兆円になるものと見込まれる(注3)。その半分近くを医療・福祉費が占めている。
医療・福祉分野では、65歳以上の人口が増加していくなかで、75歳を分岐点として、比較的元気である「前期高齢者」と、そうではない「後期高齢者」とを分類している。両者を区分することにより、前期高齢者が年金財政を左右し、後期高齢者が医療・福祉費を左右することが明らかになる。高齢者人口のうち後期高齢者の占める比率は、昭和55年(1980年)に34%(人口は366万人)だったものが、平成7年(1995年)には39%(同714万人)に増え、平成22年(2010年)には47%(同1302万人)に上昇すると予想されている(注4)。このまま推移すれば、医療・福祉費は21世紀に入り、さらに速度を速めて増加が予想される。
少子・超高齢社会の到来を目前に控え、こうして経済的にも社会的にも重要性を高めてくることが確実な医療・福祉分野について、現状をチェックしその効率的な提供を目指していくことは今や喫緊の課題である。関係各方面において、我が国経済社会の中長期的な発展をいかに持続するか、また、財政構造の改革が急務とされる中、社会保障のあり方について、活発な議論が進められている。その議論の内容は、国民負担率の問題として取り上げられ、特に、
1国民負担率の高低の水準、 2現役世代の負担増の問題を中心としたものである。こうした議論を踏まえた上で、特に本報告においては経済構造改革の視点から、国民負担率の中身の問題を軸に議論を展開する。具体的には、医療・福祉において目的と手段が整合性をもち公費が効率的に使われていて無駄がないか、負担に見合う給付内容が提供されているか、情報が開示され、その資源配分の決定過程が透明であるかが特に重要である。
(注3)
厚生省「社会保障の給付と負担に関する将来見通しについて」平成8年5月
(注4)
厚生白書 平成8年版 「年齢区分別人口の推移と将来推計」(参考3)
(注5)
「福祉」という言葉の定義には多様なものがある。「福祉国家」といえば、福祉は教育や公園などを含む広域なものである。「福祉予算」といえば、年金も含めた社会保障全般を指す。「医療と福祉」と対で使われれば、福祉とは介護など生活支援を指す。ここでは、言葉の混乱を避けるために、「医療と福祉」というときの「福祉」に限定して用いている。すなわち、「ハンディキャップのある人の生活を支える施設、マンパワー、介護用具」を指している。
3.諸外国における動向
医療・福祉制度は、各国毎に大きな差がある。社会保障に対する考え方は文化的背景や経済体制によって異なる。さらに旧西側諸国だけを見ても、米国は民間保険に大きく依存する一方、ヨーロッパ諸国の社会保障は、19世紀ドイツのビスマルクの社会保険制度の確立や英国のベバレッジ報告に見られるとおり、かなり早い時期から発達を見た。北欧諸国は全て税金を原資とした手厚い社会保障制度を有していることで有名である。
高齢化と国民医療費の関係は、まさに、その国の医療・福祉制度に依存している。すなわち、同じ高齢化率でも、国民所得に占める国民医療費の比率は大きく異なりうる。例えば、高齢化の進んだデンマークは、日本人の目からみれば老人医療に対して抑制的であり、国民所得に占める国民医療費の比率は先進国のなかで最も低い(注6)。我が国の医療・福祉制度改革の検討に当たっては、このような諸外国の動向を踏まえることが重要である。
(注6)
横内正利「高齢者の終末期医療とは何か」『イマーゴ』青土社 平成8年9月号(参考4)
◆第2章 検討の視点
1.医療・福祉費の有効利用
(1)医療・福祉サービスの効率化
医療・福祉費の増大が確実視されるなかで、医療・福祉においてはそのコスト構造の効率化を進める必要性が指摘されている。人の健康に関わる以上、必要なコストをかけることが許容されることはもちろんであるが、公費が投入される以上、無駄が多く、「低福祉にもかかわらず、中負担」、「中福祉にもかかわらず、高負担」となってはならない。しかし、現在はあらゆる診療行為や薬に公定価格が決められているために、計画経済にも似た資源配分の失敗が大なり小なりあると考えられる。
これを改めるためには、公定価格そのものを廃止するか、公定価格の決定プロセスをより一層透明化し、国民に理解を得た資源配分の決定システムを構築しなければならない。そのため、公的部門については、医療・福祉サービスを、電車やタクシー、電気、ガスなどと同じく、公共性や価格の決められ方という視点から、公共料金と捉え直すことが求められている。もちろん、医療・福祉分野は自然独占の排除や規模の経済性が働かない点を補うために必要とされる本来的な公共料金制度とはいえない。しかし、医療・福祉が国民の貴重で巨額な税金や社会保険を原資としていることに鑑みると、公共料金に比するものとして、かつ、その公共性の高さにおいては、公共料金のなかの公共料金と捉え、その決定・配分プロセスの透明化を図ることが重要である。
(2)民間活力の導入
こうして重要性を増しつつある医療・福祉分野の制度改革については、公的部門の効率化を進める一方、民間企業の経営手法を採り入れるなど、可能な範囲で新たに一層の民間活力の導入を図り、市場メカニズムを機能させていくべきである。その根拠としては次のような点が指摘できる。
1.キャッチアップ過程を終え、かなり豊かな段階となった日本においては、画一的な医療・福祉サービスを提供するよりは、市場メカニズムを活用した多様なサービスを提供するようにすべきである。
2.高齢化が進展するなかで、このまま推移すれば医療・福祉コストは大幅な増加が見込まれるため、市場の競争を強めてより安価な医療・福祉サービスが提供されるようにすべきである。
3.今後期待される技術革新の成果が医療・福祉分野にも幅広く波及していくためには、基本的には民間主体の利潤動機を活用すべきである。
但し、人が生きていく上で最も基礎的なニーズを満たす医療・福祉については、弱者に対する配慮が必要であり、民間活力の導入、市場メカニズムの活用に際しては、「実験的」な制度改革とならぬよう十分な留意が必要である。
2.国民への情報開示苟I択肢の提供
社会保障給付費は、平成7年度(1995年度)、65兆円と推計され、その半分近くが医療・福祉費である。特にその大宗を占める社会保険は、しかしながら国家予算と異なり、国民が選挙によって選んだ議員によって国会で議論を尽くして審議され決定されるということはない。
社会保険や税金という公費を大規模に投入しているこの医療・福祉費を、
1.国民から見て透明な制度であり、かつ
2.国民が議論と決定に参加できる制度
に改革することが重要である。
また、今後の社会保障費は増加が避けられず、国民の負担増は必至であるが、国民の負担が増加する以上、国民に情報を開示して、国民の決定に委ねることの重要性がますます高まる。「高福祉、高負担」か「低福祉、低負担」かの選択、どのような世代がどのように負担するのか、あるいは、どのような医療制度、福祉制度を選択するのかを決する権利は、国民にある。さらに、近い将来、高齢化の一層の進展により、現在の諸外国のように医療・福祉の水準低下を議論する必要が生じることが予想される。しかし、その場合でも、負担と給付の水準とその内容を決定するのは国民であり、その際、国民は正しい情報や議論の場を得ておく必要がある。そのための状況を作り出すことが、今、緊急に必要である。
◆第3章 問題の所在と改革提言
1.背景
日本の医療・福祉制度の特色として、高齢化の進展により、国民負担率上昇の懸念という形で将来的な医療コストの増大が顕在化するまで、医療偏重などの問題点が明らかにされず、そのことについて、国民の間で議論に付される機会が希少であったこと、すなわち、制度の決定や配分のプロセスの透明性に欠けたことが挙げられる。
昭和36年(1961年)に国民皆保険制度が導入され、国民医療について社会保 険で支える体制が整備され、医療体制の質的向上と量的普及が見られた。その一方、
急速に増加した高齢者に対する医療・福祉ニーズに対する施策が求められ、昭和48 年(1973年)に老人医療費が無料化された。老人対策として医療部門の充実が図
られたことの意義は大きいが、本来、福祉部門による介護を必要とした老人に対する 施策も医療機関が代替することとなった。その結果、老人医療費が高騰する反面、必
要な福祉施設の整備・拡充は十分になされないままとなった。医療・福祉が未分化であることは、老人「医療」費が無料化(自己負担ゼロ)された時、これを政府並びに
国民は「福祉」元年と呼んで何ら違和感がなかったことにも象徴的に現れている。 このように、医療と福祉との間にはっきりした境界線は全く引かれておらず、両者
間の混乱が今日の社会的入院といった解決が困難な大きな問題を生じる要因となっている。
2.医療
(1)問題の所在
日本では、寝たきり老人などと呼ばれている要介護の高齢者を、福祉施設(特別養護老人ホ−ムなど)ばかりでなく、医療施設(老人病院など)でもお世話している。前者には30万人が生活し、後者には倍以上の70万人の高齢者が生活している(注7)。入院治療の不要な高齢者が、福祉施設や在宅での生活を支えるホームヘルパーなどの不足によって、病院で暮らしていることを、「社会的入院」と呼ぶ。本来、福祉施設で行われるべき介護が、日本では大規模に医療機関で行われているが、その歪みは、医療施設の方が倍近いコストがかかる一方、居室面積が福祉施設より狭いことに端的に現れている。平成8年の経済白書によれば、1ケ月当たりの費用は、特別養護老人ホ−ムで約26.2万円、社会的入院の代表である療養型病床群では約42.8万円であり、厚生省によれば、社会的入院は同50万円である(注8)。利用者一人当たりの居住面積を比べると、特別養護老人ホ−ムは約10m2(最近まで約8m2)で、病院の1.5倍から2倍と広い。
なぜ倍近いコストのかかる医療機関で、本来の目的ではない介護を大規模に行うかは、一見、経済的には納得しがたい現象であるが、こうした医療偏重の巨額な無駄が続いていることの背景の一つに、医療施設(老人病院)は主に保険(社会保障費)で賄い、福祉施設(特別養護老人ホ−ム)は主に税金で賄っていることが挙げられる。国民の反対する増税よりも、使途が医療に定まっているという理由のために国民の納得を得やすい保険料の引き上げで、要介護老人の急増に対処しているためである。確かに使途は限定されているものの、国民から仕組みが見えにくい社会保険を財源とするために、無駄に対するチェックが制度的に働いていない懸念がある。
特に、各保険制度間の複雑な調整メカニズム(老人保険拠出金制度)の存在や個々の保険者の効率化へのインセンティブを引き出す仕組みがないことなどは医療の効率化を実現する上での大きな課題である。今日、巨額の税金の補助がある社会保険は、自律的に効率化を目指すという保険本来の特質を制度の中に見失ってしまい、税金の補助を求めて肥大化の方向性を示しているとの見方がある一方で、現行の制度的欠陥を是正するという前提で現状の日本型社会保険制度を維持するという議論も多数意見として存在する。今後、国民医療費の高騰を防ぐに当たっては、財源論にまで踏み込んだ議論が不可
欠であり、そのためにも医療・福祉制度の情報開示、透明化が必要である。また、少子・高齢化に伴う世代間の争いを先鋭にさせないためにも、所得・資産における高齢者の二極現象を考慮にいれた財源調達やその使途の在り方を検討せざるを得ない。なお、経済審議会においては、他に財政・社会保障を扱うワーキンググループが設置されており、当該テーマについてはその場で議論が進められている。詳細はそちらでの議論に譲り、当ワーキンググループでは取り扱わないこととする。
現行の診療報酬制度のあり方については、医療偏重を可能とし、社会的入院等の背景となっている問題点を抽出すると同時にその見直しが必要であろう。
医療費の伸びを抑制するため、自己負担比率の引き上げが検討されている。自己負担率の引き上げは、国民に医療にかかることのコスト意識を持たせ、あるいはまたモラルハザードを排除し、医療費が抑制されるという議論である。しかし、医療費の抑制のためには、社会的入院の解消や薬剤費の抑制によることが最も効果が大きく、利用者にとっても弊害がないことは周知のことである。従って、まず、医療・福祉分野の効率化を目指すことが優先されるべきである。さらには、医療費総額を個人に知らせることを制度化することにより国民の医療費に対する意識を高め医療費抑制の効果を期待するべきである。その後に自己負担比率を引き上げることを議論する場合でも、医療機関へのアクセスを閉ざすことが医療本来の目的や理念からみて正しい考え方であるか、アクセスが良いため、初期診療が容易に行われ早期治療がなされることのメリットが失われるのではないかとの懸念に十分配慮する必要がある。
(注7)
厚生省高齢者介護対策本部事務局監修「高齢者介護問題を考える」平成6年
9月(参考5)
(注8)
厚生省「介護保険制度案について」平成8年7月(参考6)
(2)提言
1.診療報酬制度等のあり方
現行の診療報酬制度については、長所・短所を併せ持つ、出来高払い制度、定額制度、包括払い制度の各制度の整合性ある利用の仕方を検討すべきである。また、診療報酬制度が医療偏重のインセンティブを与えており、結果として社会的入院の要因の一つとなっていること、一部の医療機器に高額な診療報酬が設定されており内外価格差の要因にもなっており、そのあり方について見直しが必要である。
1 診療報酬制度の透明化のための中央社会保険医療協議会(いわゆる「中医協」)の見直し
27兆円にも上る国民医療費(注9)の資源配分を左右するのが、診療報酬点数と医療用医薬品、特定保険医療材料の個々の価格を厚生大臣が諮問する中央社会保険医療協議会である。診療報酬点数と医療用医薬品、特定保険医療材料の個々の価格は、公共料金ともいいうるものであり、加えて、報酬が確約されているために、価格の高さはメーカー、流通業者、医療機関にとって極めて重要である。例えば、同効の薬では、医療機関は薬価差益を得るために、高額なものほど流通する傾向がある。ついては、中医協での議論の透明化が必要であり、詳細な議事録の公開は必須である。そのことで、社会保険と税金という公費を投入する国民医療費について、民意を反映し、効率的な資源配分を達成することが可能となる。また、中央社会保険医療協議会のメンバー構成は、長年にわたって定席と化しており、現在の日本社会を正しく反映し代表したものに見直すことが必要である。
2 医療機器の輸入販売に係る高額な診療報酬の是正
もともと高額な診療報酬が設定されているペースメーカー、PTCバルーン・カテーテルや冠動脈ステントは海外の約3倍の値段で納入されているが、このような内外価格差の是正のためには、総代理店制度の見直しとともに、海外の3倍で売られることを可能とする、すなわち医療機関に損失をもたらさない高額の診療報酬の是正が必要である(注10)。この点、厚生省は、こうした内外価格差の解消のためには、市場競争を促進することが必要であり、国内における流通慣行の合理化を図るとともに、個人輸入の促進や並行輸入を行うことが考えられると発表している。具体的には、個人輸入が医師の個人使用の場合に限定されているが、その輸入手続の簡素合理化を検討する。並行輸入について、安全性確保の観点から並行輸入業者において承認申請の際に規格設計書や仕様書等のデータを添付する必要があるが、製造業者の協力が得られなければ事実上困難であるため、今後、並行輸入の促進のための具体的方策がないかどうか検討を進める。流通慣行の合理化について、価格形成の透明化、輸入業者、流通業者の取引の適正化に、関係省庁の協力を得ながら取り組む。と発表されているところである。こうした取組は方向性、方策共に正しく、今後の施策の展開が期待される。
(注9)
厚生省保険局「医療保険制度改革を考える」平成8年7月(参考7)
(注10)
日本貿易振興会「対日アクセス実態調査報告書−医療機器−」(参考8)
3 医療と福祉の混同をやめ、社会的入院の現実的な解消策を講ずること
医療費の巨額な無駄を避けるために、コスト面で極めて割高な社会的入院の解消が必要である。問題とすべきは、こうした貴重な医療・福祉の資源配分の誤りやコスト・パーフォ一マンスの悪さばかりでない。むしろ、生活の場ではなく治療を目的として患者を管理している医療施設において老後の長期間の生活があるために、むしろ高齢者の生活に対して弊害さえみられることである。早急に、医療と福祉の混同をやめ、社会的入院の現実的な解消策を講ずるべきである。(参照
IV.2.1) 特別養護老人ホームの拡充・民間企業による施設介護サービスの提供)
2.民間活力の導入等による医療機関の効率化
今後の高齢社会の到来を控え、医療費の効率化を進めるためには、民間企業の経営手法を採り入れるなど、適切な民間活力の導入等による医療機関自体の効率化を促す仕組が必要である。
3.遠隔診療を可能とするための規制の緩和
少子・高齢社会の到来は、地域社会に多大な影響を与える。過疎化が進展する山間地等においては、特に高齢者比率が高まることが予想されるが、こうした高齢者の生活の医療、介護につき、遠隔診療・介護へのニーズが高まっている。また、情報通信技術の目ざましい進展を医療分野に応用することにより、遠隔地にいる専門医の所見の導入が可能になる。具体的には、医療分野においては、医師法の対面診療原則(注11)の緩和が求められる。この点、厚生省において、初診時を原則として除き、遠隔診療を認める旨の医師法の解釈通知を出すことを既に検討しており、遠隔診療を可能とする制度整備が急速に進められている。また、福祉分野についても、セキュリティー面での安全を向上させたり、民間部門における介護機器、介護システムの開発及びこれらの民間事業者による普及の促進につながる利点もある。
(注11)
医師法第20条参照(参考9)
4.カルテの共用化を進める一方、患者がカルテの内容を知ることを保障すること
医療機関を替えるごとに、全ての検査が繰り返される重複検査への疑問が絶えない。こうした重複検査を排除するための方策としては、医療機関を超えたカルテの共用化を進めることが求められる。カルテの共用化が進めば、医療費が削減され、長期の時系列から見た病状の変化などを診療に当たり十分に参考にすることも可能となる。一方、患者自らが診療内容を知り得ないため、「インフォームド・コンセント」が実質的に担保されておらず、個人の意思決定を医療行為に反映させる前提が欠けているとの指摘も見られる。こうした点につき、患者が自らの診療方法を自己決定する前提として、自ら望む場合、カルテの内容を知りうることを制度的に保障することが望まれている。このため、カルテのコピーを患者に手渡すことが考えられるが、告知の問題や患者のプライバシー保護に十分配慮して慎重に進める必要がある。また、情報通信技術を有効に活用し、カルテ等に記載した個人の診察状況を磁気カード等に記録し、診察時に常時携帯するシステムの採用等が考えられる。しかし、こうした磁気カード化についても、カード記載情報の信用性(カード記載情報に誤記がある場合、後続診療の過誤が生じる懸念の防止等)をいかに担保するかという問題点を有している。診療行為の効率化・透明化に向け、1
カルテの共用化2 患者自ら望む場合、カルテの内容を知りうることの保障のための方策をさらに検討する必要がある。
3.医薬品
(1)問題の所在
戦後の医薬品の技術革新は多くの難病を克服し、医療の発展に尽くした。その一方で、処方薬の公定価格を決める薬価基準制度の存在が1兆円超とも言われる不適切な薬価差益を生む要因になっており、これが医療を受ける国民の大きな負担となっている。
薬価差益に病院経営が依存せざるを得ない状況が存在する一方、国際競争力をもたない我が国医薬品業界は行政への依存体質が強く、そうした病院、医薬品業界、行政の三者間関係が過度の薬漬けや薬害を引き起こしている懸念が指摘されている。
特に、過去15年、2年に1度、薬価は平均して10%前後引き下げられてきた。しかし、医療用医薬品の市場規模は数分の1に縮小することはなく、むしろこの間に2倍近くに拡大している。医薬品メ−カ−は薬価の大幅に下がった薬に替えて、続々と新規性が乏しい一方で、薬価の高い「新薬」に自社の商品構成を切り替えていったためである。昭和56年(1981年)からの10年間をみると、日本の新薬の承認数は合計393点を数え、研究開発力で日本を圧倒的に凌駕する米国をも165点上回った(注12)。その弊害は甚大である。航空・宇宙・軍事を除けば、ハイテク産業の中で、ひとり医薬品産業の国際競争力は低いままである。研究開発が、質より量の、二番煎じや用法変更といった同種同効に偏し、しかも過度に多数のメーカーによる重複投資が相次いでいる。世界には通用しないが高い薬価がつけられる「ゾロ新」と呼ばれる新薬を、多数開発するために莫大な研究開発費は、業界全体で平成6年には7千億円に近い(注13)。研究開発費は医薬品メ−カ−の経費ではあるが、その原資は国民が支払う社会保険と税金がほとんどである。
こうした日本の医療用医薬品の特徴をまとめるならば、
1.他国に比べて1人当たりの薬剤費が高いこと
2.高薬価であること、同効種ならばより高額な薬が選ばれることが多いこと
3.欧米では有効性や新規性に乏しいという理由で新薬として承認されないものが承認されること
4.効き目よりも安全性が尊ばれるにもかかわらず薬害の絶えないこと、欧米の医薬品メーカーに比べて国際競争力が格段に劣ること
5.度重なる大幅な薬価引き下げにより薬の商品としてのライフサイクルが短くなること、代替として医薬品メーカーは常に新薬を必要として開発の容易な物まね的な研究姿勢となること
6.薬価の決定が不透明であること
などである。これらの是正が必要である。
(注12)
厚生省「21世紀の医薬品の在り方に関する懇談会 中間報告書」平成5年2月(参考10)
(注13)
日本製薬工業協会「DATA BOOK 1995」(参考11)
(2)提言
1.新薬承認基準の見直
過去の薬価引下げの際の説明は、診療報酬の引き上げ分の過半を補うという医療費の枠内での自己調達というものであった(注14)。しかしこのような改革は結果的に、多数の「ゾロ新」を市場に送り出すという無駄を生じ、医療費も医薬品市場も拡大してきたのが実態である。ついては、この是正のため、診療報酬のあり方や新薬承認基準の見直しを図ることが必要である。
(注14)
厚生白書 平成8年版 「診療報酬改定および薬価基準改正の経緯」(参考12)
2.薬事行政の透明化
上述した医薬品開発に係る非効率性が温存されている一因として、国民に対し、十分かつ詳細な情報が提供されず、チェック機能が働いていないことが挙げられる。新薬承認手続や薬価のあり方について、国民に詳細な情報を提供する必要がある。
4.福祉
(1)問題の所在
1.福祉の経済的な意味
日本の福祉はとても十分とは言えない。貴重な資源が、老人医療に傾斜配分されているために、本来治療を行うべき病院が介護の役割を担ってきた。そして、残りの多くは家族の役割とされてきたためである。
公的福祉施設の設置に際しては、社会福祉法人が老人福祉施設等を設置するに当たり、例えば特別養護老人ホームであれば定員が50名以上等の一定の要件を満たす場合、国と地方自治体が相互に補助を行うが、厚生省の定めた基準を満たさないため、国の補助事業として認められない場合、老人福祉施設として地方自治体は単独で補助を行うことはできない。すなわち、特別養護老人ホームの設置は、国の施設設置基準により制限され、地方自治体が住民ニーズに応え、きめ細やかな配慮に基づき、設置
を決定する仕組みが取られていない。
また、現在でも「福祉は経済を傾ける」といった議論が見られるが、福祉分野の規制緩和を進めることにより、民間マーケットの拡充が期待されるとともに、福祉には日本社会を支える面があり、経済的側面を多分に有することを積極的に評価すべきである。すなわち、高齢化により負担のみがもたらされるわけではない。高齢化により介護サービスなどの新規需要が創り出されるという考え方も必要である。福祉は、ヒトがヒトを介護するから最も労務集約的であり、雇用創出効果が大きい。医療・福祉は多くの雇用を支え、日本経済の根幹の一つを形成していることの意義は、他の産業分野と同じである。現に、平成7年11月に経済審議会から発表され、12月1日に閣議決定された「新経済計画」では、平成5年(1993年)から平成12年(2000年)までに、新規に創出が展望されている421万人の雇用のうち、医療・福祉部門で約114万人と大きく期待されている。ここで、医療・福祉部門といっても、その大部分は福祉部門であろう。
また、老親の介護のために、職を辞めたり、パート労働を余儀なくされているといった家族は実に多い。現在の要介護の高齢者は200万人を超え、平成22年(2010年)には400万人に近づくとみられ、まさに福祉は、橋や道路と同じで産業基盤の性格も有してきた。福祉がなければ、家族は老親の介護に追われて職場に行けないからである。これに加え、保育所の増設、充実等の保育対策の充実も女性の就業率向上、出生率向上を通じ労働力供給に資することとなる。
超高齢社会の到来に向け、財政事情の悪化を懸念し、「福祉の削減」「福祉水準のダウン」が議論の俎上に登ることもしばしばであるが、本来、福祉サービスは国民全員を公平に対象とするべきである。それゆえ、理念的に、国家目標とされるべきものであり、一面的な福祉費の削減は厳に慎むべきである。
2.民活の推進と消費者保護
効率的に多様な福祉の充実を図るためには、民間活力を福祉分野へ導入し、消費者の自立自助を支援することが極めて重要である。すでに昭和61年(1986年)6月に「長寿社会対策大綱」の閣議決定をみている。
しかし、この10年、民活の推進が叫ばれるなか、民間福祉のシェアは期待されるほど発展が見られない。それどころか、消費者被害が広まるばかりであり、唯一産業として離陸した有料老人ホームは、倒産不安と質に対する不信感によって客離れがおこっている。有料老人ホームについては、事業者側は「終身介護」という看板を掲げながらも、介護する場所については、具体的な記述を契約書やパンフレットへ掲載してこなかった。一方、高齢者は有料老人ホームを「終のすみか」と期待して入居するため、自分が要介護状態になったときに、ホームの中で介護されるか、外に出されるかは、消費者のホーム選択に当たり、最重要な情報である。しかし、平成6年9月には、総務庁行政監察局が調査した70ホームのうち、募集広告等の内容が不適切であるとしたものは41施設を数えた。民間福祉市場の現実は、表示のルールなくしては、公正競争の条件が整わないことを示している。
こうした民間福祉の発展が阻害されてきた背景には様々な要因が存在するが、シルバーマーク制度等の業界の「自主規制」に任されてきたことが一因である。現状の業界の自主規制は、
1
需要者たる消費者が安心してマーケットに参加する基本的なルールとして機能していない。このことは、消費者被害の拡大からも明らかである。(不十分な社会的規制)
2
供給者たる民間事業者に対しては、マーク取得業者にカルテル的な利益を保障し、多種多様な機器・サービスを提供する意欲のある事業者の新規参入の大きな障壁となっていると言われている。(過剰な経済的規制)
こうした弊害を有するシルバーマークを廃止し、多種・多様な福祉ニーズに対応した民間事業者の自由で活力ある経営活動を促進すべきである。なお、民間福祉マーケットの活性化のためには、消費者が高齢者や社会的弱者である特性に配慮し、安心して市場に参加する条件を確立することが条件となる。こうした消費者保護については、現行の実効性の乏しい業界自主規制に代わり、別途、情報公開や約款の統一などの必要最低限の新たなルールを構築することにより対処すべきである。この点につき、東京都が平成7年1月1日から消費生活条例(各都道府県とも同様の条例を有する)に基づく表示の義務付けを有料老人ホームの事業者に課すことを実施したことが参考になる。従来、有料老人ホームの広告がイメージ的であったのに対し、東京都は消費者にとって必要不可欠な商品内容の一括表示の義務付けを行ったが、この条例に基づき、ホーム選択に当たり不可欠な情報であり、ホーム側からは自発的には提供されることのなかった情報が消費者に初めて提示されることとなった。
(2)提言
1.特別養護老人ホームの拡充・民間企業による施設介護サービスの提供
公的福祉については、何よりも特別養護老人ホームの拡充が急がれる。社会的入院の解消とは、入院期間が3ケ月を過ぎると診療報酬が大幅に下がるといった手法をとって病院から要介護の高齢者を無理やり退去させることではなく、福祉施設の増床によるべきである。でなければ、現在みられるような高齢者の病院間のタライ回しや重度の高齢者ほど自宅へ返される、という社会不正義がいつまでも解消されないであろう。厚生省(平成2年調査)によれば、病院で生活する高齢者は70万人(老人福祉施設で生活する高齢者は30万人)にも達するというのに、特別養護老人ホームの増設計画は平成4年度から平成11年度末までに9万人分にすぎない(注15)。福祉施設を増やさずして、社会的入院を抱える病院を批判したり、あるいは診療報酬の引き下げというペナルティーを課しても、現状が示しているように、事態は改善されず悪化するばかりである。また、公的セクターだけでなく、民間企業による施設介護サービスの提供も併せて検討することが重要である。(参照
(2).2.1. 3)医療と福祉の混同をやめ、社会的入院の現実的な解消策を講ずること)
(注15)
新ゴールドプラン参照
2.公的福祉における規制の緩和
上述した国の補助決定が、厚生省の通達、内部規則等により厳しく制限され、特別養護老人ホーム等の設置に多くの要望があるにも関わらず、設置が遅々として進んでいないと指摘されている。こうした過度にわたる制限を撤廃し、必要な公的福祉の拡充を急ぐべきである。この点について、厚生省において、現行制度でも、公費支出を伴わない要介護老人の小規模入所施設の設置は可能となっているが、公費の支出対象となる特別養護老人ホームについては、最低定員基準が通常五十人とされ、離島、山村、過疎地域、大都市に設置する場合は三十人とされていることにつき、ショートステイなどの在宅サービス施設等を併設することにより処遇の確保と効率的な施設運営が図られる場合は、定員三十人未満の特別養護老人ホームも設立できることとすることが検討されている。
3.シルバーマークの撤廃
シルバーマークは、業界団体である社団法人シルバーサービス振興会が国のガイドラインに適合していると認められた事業者に交付している(注16)。
以下、具体的な問題点を挙げる。
1
行政に代わって規制を行うという公益法人の問題点がある(注17)。
2
業界団体(シルバーサービス振興会)が排他的に認定しており、参入規制につながる。
3
社会保険庁の政管健保在宅介護支援等事業の対象業者といった公的な恩恵を独占している。
こうしたシルバーマーク制度は、経営側からは自己に不利益な情報が開示されないことと、参入規制やカルテル行為の温床になりやすいことから、これを廃止すべきである。
なお、この点につき、厚生省は積極的に次のような対応をしている。市町村が在宅 サービスを民間事業者に委託する場合には、極力シルバーマークを取得した事業者と
するよう通知で指導しているが、民間の実施しているマークを国が推奨し、結果とし て民間事業者の参入の妨げになっているという指摘のある当該指導については、廃止することを検討している。
また、福祉サービス事業者を評価し、その結果を表示する民間団体は複数存在しても差し支えないものと考え、行政庁としてそうした民間の自主的活動に対し関与すべきではないと考えていると発表されたところである。
(注16)
行政改革委員会規制緩和小委員会「規制緩和に関する論点公開」平成8年7月(参考13)
(注17)
与党行政改革プロジェクトチーム「公益法人の運営等に関する提言」平成8年7月(参考14)
4.民活の推進と消費者保護
上述のシルバーマーク撤廃により、民間事業者の福祉マーケットへの参入を促進するに際し、民間福祉においては、市場に参加する経営側と消費者側との情報の非対称性(圧倒的な優劣)が存在することに留意する必要がある。ついては、情報開示や約款の統一化といった消費者保護の最小限の公的なルール作りを行うことによって、高齢な消費者が安心して市場に参加できるようにする必要がある。
(参考1)
厚生省「人口動態統計(平成7年)」都道府県別にみた合計特殊出生率
(参考2)
経済白書 平成7年版 第3−2−1図 厚生省人口問題研究所の各回人口推計における前提値の推移
(参考3)
厚生白書 平成8年版 「年齢区分別人口の推移と将来推計」
(参考4)
横内正利「高齢者の終末期医療とは何か」『イマーゴ』青土社 平成8年9月号
(参考5)
厚生省高齢者介護対策本部事務局監修「高齢者介護問題を考える」平成6年9月
(参考6)
厚生省「介護保険制度案について」平成8年7月
(参考7)
厚生省保険局「医療保険制度改革を考える」平成8年7月
(参考8)
日本貿易振興会「対日アクセス実態調査報告書−医療機器−」
(参考9)
医師法第20条
(参考10)
厚生省「21世紀の医薬品の在り方に関する懇談会 中間報告書」平成5年2月
(参考11)
日本製薬工業協会「DATA BOOK 1995」
(参考12)
厚生白書 平成8年版 「診療報酬改定および薬価基準改正の経緯」
(参考13)
行政改革委員会規制緩和小委員会「規制緩和に関する論点公開」平成8年7月
(参考14)
与党行政改革プロジェクトチーム「公益法人の運営等に関する提言」平成8年7月
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