■論文「日本の大論点・・・2004年は革命的に一変する」


◆1 介護保険後に急増した有料老人ホーム

 高齢者は、住み慣れた自宅にいて老後も生活を続けるのが、幸せ。
 それが介護保険制度の「理念」というものである。
 しかし現実は、たとえ外から訪問介護サービスや在宅入浴サービスなどを受けても、地獄の家族介護という実態はあまり変わっていない。

 それどころか恐ろしいことに、介護に疲れた家族から、要介護の高齢者がいじめられる「高齢者虐待」が社会問題化してきた。
 というのも、ホームヘルパーが自宅を訪問したら、寝たきりの高齢者の身体にアザがいくつも見つかった等々によってである。
 介護保険制度は、家族介護の負の部分を白日の下にさらした。

 こうしたなか、介護専門の有料老人ホームが都市部で爆発的に増えている。介護保険がスタートして3年半で3〜4倍、今や全国に1000近くあるのだろう。
 老親を施設に預けたい家族にとって、次のような事情から、格安の料金体系となったからである。

(1)大企業が独身寮をリストラで大量に放出した。
 有料老人ホームの経営者にとって、およそ三分の一の値段で建物が手に入る。このため、数百万円という格安の入居一時金が誕生した。
 今後も大都市部では超高層ビルの建設ラッシュによって、2004年から、テナントの抜けた中高層のオフィスビルが、膨大な数、放出される。これらは、どのように有料老人ホームに改築されていくのだろうか。まさに見物である。
 ことに、東京郊外の自治体が介護保険財政の負担拡大を嫌うなかでは、都心部の有料老人ホームの大量開設は急務であろう。

(2)介護保険は、平均して月に要介護者一人当たり約18万円という高額な報酬を、有料老人ホームへ保険給付する。
 このため、月々の、家族の自己負担は20万円を切り、半値になった。老親の年金が月に10万円もあれば、さらに自己負担は軽くなる。

 こうした利用者(家族)の利益ばかりでなく、関係者の利益もまた、どれも大きい。

(1)経営側の利益は莫大である。
 厚生労働省は、要介護者3名に対して、介護職員1名を置くように指導している(これを「3対1基準」という)。
 ところが、要介護者1人当たり18万円の介護保険報酬を得られるから、それで常勤パート一人を雇える。すなわち、「1対1基準」でもクリアーできるのに、「3対1」で構わない、というのが行政の見解。
 とりわけ、厚生労働省は介護職員が公的資格を有することは必要ない、としている。通常ならば、役人はことさら資格を要求して自らの利権を高めるものだが、介護保険制度は始まったばかりのために五里霧中のようである。
 こうして、介護報酬の半分を事業者側が利益とすることを可能としているようだ。

(2)働く方も、18万円もらって条件は良くなった。
 在宅介護であれば、ホームヘルパーは暑い夏も寒い冬も雨の日も風の日も一軒一軒を訪問して回る苦労は、並大抵ではない。しかも、収入は月に10万円がせいぜいであった。

(3)金融監督庁や銀行にしても、大いに助かっている。
 不良資産である独身寮や倒産したホテルが、有料老人ホームに再利用されて、転売されるからである。
 銀行が抱えてきた百兆円の不良債権の一部は、こうして処理されている。
 さらに今後は、あふれ出る中高層のオフィスビル問題の解決にも役立つことだろう。

(4)有料老人ホームに対する監督責任は都道府県にあるが、しかし・・・。
 介護保険制度では、最重度の「要介護5」の場合、自宅介護では月に36万円の給付であるが、有料老人ホームに住み替えてもらえれば、26万円の給付で済む。
 したがって、都道府県は有料老人ホームの不祥事には寛大であって、うるさいのは誇大広告に排除命令を出す公正取引委員会ぐらいである。ちなみに、昨年の秋に、東京都福祉局は有料老人ホームの行政指導の内容を書き換えたが、看護師も介護福祉士も1名いればいい、というものである。

◆2 介護費の給付制限は、「医療」制度改革にまで波及する

 アメリカのナーシングホーム産業は、介護保険のアメリカ版である「メディケイド」が1965年にスタートしてから、一気に急拡大した。
 ところが、双子の赤字対策や高齢者の増大によって、アメリカ政府はメディケイドの給付制限を次々と強化していった。代表的なものは、いわゆるレーガン政権の「福祉の切り捨て」である。

 歴史は繰り返すのだろう。
 日本でも介護保険財源の窮乏から、目下、保険料金を支払う対象を従来の40歳以上から20歳まで引き下げる等の対策が考えられている。
 しかし、年金制度に対する確信的な不信から、若年層の年金保険料の未払いは急拡大している。ここで、介護保険料の支払い者を20歳まで引き下げれば、不払いは一段と加速して、日本の社会保障制度は一気に瓦解しかねない。

 となれば、行き着く先は介護給付金額の減額であろう。

 ところが、コトは簡単ではない。
 有料老人ホームの介護報酬額は、70万床に及ぶ特別養護老人ホーム、老人保健施設、療養型病床群のそれにそのまま直結しているからである。70万床の大半は、おそらく直接・間接に医師の経営下にあるとみられる。となれば、なかなか厚生労働省には手が出せまい。
 日本医師会の大反対を押し切って、2002年春に診療報酬の2%下げを強行したばかりだ。

 しかも事態はなお複雑である。
 療養型病床群はおよそ半数が、「医療」保険から給付を受けていること。
 社会的入院を放置し続けたトガがここにも見られる。
 したがって、療養型病床群をいじれば「医療」制度改革の本格的な改革議論にも強く波及してしまう。
 今の政府は、医療制度改革については、高齢者医療の財源をどう組み立て直すかに勢力を傾注しているから、とても余裕はない。

 ざっくばらんに言えば、厚生労働省には医療制度改革と介護保険制度改革の両方を俎上に乗せる、言わば二正面作戦を取ることは、能力的に不可能である。それだけの論客は、中村秀一老健局長ぐらいしかいない。その彼も、今は介護保険制度改革の微修正だけで時間の大半を取られている。

◆3 公正取引委員会、とうとう抜いた「伝家の宝刀」

 むしろ、有料老人ホームの革命的な変化はもっと違うところから起こっている。
 それは、有料老人ホームに対して、徹底した情報の強制的な開示である。2004年春からは、情報を開示しないホームに対して、公正取引委員会は景品表示法に違反したとして広告類について排除命令を出すから、実質的に営業停止命令と同じようなことになる。
 しかも、公取委が求める強制開示の情報とは、「自らのホームの欠点」である。デメリット表示を強制するのが、景品表示法の第4条3号である。この10年間、公正取引委員会は第4条3号を使わなかったから、抜かずの「伝家の宝刀」と言われてきた。

 デメリット表示とは何かを、昭和48年に第4条3号が発動された「無果汁」ジュースを例に説明する。
 皆さんが自動販売機やスーパーでジュースを買うとき、必ず容器に大きな字で「果汁100%」とか「果汁1%」と書いてある。
 それを見て消費者は選ぶから、果汁の少ないものは敬遠されてしまう。メーカーが「果汁1%」と容器に表示をしなければ、第4条3号に違反して排除命令となる。こうして昭和48年から、悪質な業者が市場から排除されたのである。
 2004年から実施される有料老人ホームの表示において、排除命令となるのは、次のような「不」表示である。

“不”表示として「排除命令」となる事例
(1)介護が必要になって介護専用居室に住み替える時に、相部屋となったり、たとえ個室でも面積が狭くなったり、さらに入居一時金(家賃)が従来通り償却されてしまったり・・・といった不利益があるのに、そうした欠陥が広告には書かれていない。

(2)痴ほうになると介護しない場合がある(終身介護ではない)という著しい不利益があるのに、そうした欠陥が広告には書かれていない。

(3)介護保険の他に、介護一時金○百万円を徴収されるのに、「手厚い介護サービス」という抽象的な表現だけで説明が済まされ、○百万円に該当する個々のサービスが一つひとつ具体的に明示されていない。

(4)看護師、介護福祉士などの「介護の質」を左右する有資格者について、人数や配置状況が明示されていない。

 “不”表示が「排除命令」となる事情については、極めて重要なことなので、繰り返して説明する。

 公正取引委員会は、これまで広告が誇大であるとか事実と異なると、不当表示であるとして警告してきた。
 しかし、この度の有料老人ホームに対する新しい法律とは、以上のような事例にあるように、欠点を隠して表示しない(不表示)と、法律(景品表示法)に違反してしまう。
 つまり今回の法律は、事業者が販売している商品やサービスについて、その欠陥(デメリット)を強制的に広告させて消費者に強く注意を呼びかけるもの。当然だが、どんな会社でも欠陥を広告したら商品やサービスは売れにくくなるから、欠陥(デメリット)を多くもつ悪徳事業者は市場から排除されてしまう。
 もしも排除されることを嫌って、自社の欠陥を隠して、広告しないとなると、表示すべきものを表示しなかったという“不表示”となり、法律違反となる。

 消費者への情報開示を怠ると、法律違反となる。そして、公正取引委員会が「排除命令」を出すと、その有料老人ホームはパンフレット類が使えず、入居者の募集ができない。営業停止にも等しい厳しい処分となる。
 こうして、消費者は、「終身介護が本当に出来ているのか」「料金が妥当かどうか」を比較検討できるようになる。

 要介護者の介護に疲れた「家族」からではなく、真に「入居者」の立場からみた場合、有料老人ホームの善し悪しを左右するのは、介護サービスを受けながら生活する居室の広さや、有資格者がいったい何人いるのか等である。
 とくに、看護師、介護福祉士などの「介護の質」を左右する有資格者は、給与が高いが、前述したように、介護保険は十分すぎるほどの給付を有料老人ホームに対して行っている。
 そのため、有資格者の少ない有料老人ホームは、消費者からみると、営利第一主義なのか、それとも多数の高給の有資格者を雇えないような経営内容なのか、と判断されてしまうかもしれない。

 この場合、看護婦と准看護婦では給与水準は異なる(法律が変わり、看護師、准看護師と呼ぶ)。介護職員の場合は、専門学校に2年も通うなどしないと取得できない「介護福祉士」と、比較的楽に取れる「ヘルパー2級」とで大いに異なる。

 ところで、“不”表示として「排除命令」となる事例、における(3)もまた、極めて消費者にとっては切実である。
 というのも、「介護一時金を高く設定しているホームほど、介護サービスの内容は良いはずだ」という誤解を消費者に与えるので、介護サービスが十分ではなくても介護一時金を入居時に徴収する有料老人ホームも存在したからである。

 ちなみに、私は、毎年お不動さんに参拝して護摩を焚いてもらう。
 3千円の護摩でも5千円の護摩でも御利益は同じはずだが、やはり心情的に料金の高い五千円の護摩を焚いてもらう。
 有料老人ホームも、介護保険だけでは不安になり、どうしても入居時に数百万円の介護一時金を払う方が、高齢者にとっては安心できるのだろう。
 そうした高齢者の不安心理を悪用する事業者が残念ながらいる。

 このような弊害を除去するためにも、2004年春からは、介護保険制度がありながら、加えて自己負担の介護費用を消費者から取るときは、それに値するサービスを一つひとつ具体的に列挙しなければ「不当表示」と認定する、としたのであろう。

 したがって読者の皆さんは、ご自身やご両親について良い有料老人ホームへの入居を考えているならば、第4条3号の実施後にホームを選ぶといいだろう。
 入居した有料老人ホームに、万一、排除命令が出されれば、倒産してしまうかも知れないからだ。

◆4 消費者契約法とは何か

 景品表示法ばかりではない。
 平成13年4月から施行された「消費者契約法」もまた、有料老人ホームを一変させることだろう。

 平成15年7月16日、京都地方裁判所は画期的な判決を下した。
 新しく成立した消費者契約法を根拠法令として、「すべり止め」に受けた私立大学へ前納した入学金や授業料は、入学辞退者に対しては、返還することを命令したのである。
 「前納金は決して返さない」という一筆それ自体を、不当な契約であるとして否定したのである。
 今や、消費者の足元をみるような、売り手に都合の良い契約内容は、消費者契約法によって否定される時代がいよいよ到来したと言っていい。

 となると、有料老人ホームにも波及するかもしれない。
 数千万円の入居一時金を、一括前払いして、50平米の居室に入居しても、寝たきりになると、入居一時金のかなりを返さずに、相部屋や狭い個室へ移すという契約内容は、消費者契約法に違反する可能性が否定できなくなってきたからである。

 その点で注目すべきは、厚生労働省がこの6月に発表した「2015年の高齢者介護」という報告書である。
 そのなかで、人間の尊厳が保持できる生活空間として、国の定めた「最低居住水準」を示している。一人住まいでは18平米。私も同感である。18平米以下だと、トイレなどがうまく部屋に収まらず“生活空間”とは言いにくい。
 グリーン東京では、介護居室は個室であり、しかも30平米を確保している。

 有料老人ホームほど、家賃の支払い方法が特殊なものはあるまい。
 入居時に、終身の家賃の全額を数百万円から数千万円も前払いする。
 「入居金」とか「入居一時金」と言われるものは家賃であり、現に消費税が免除されている訳であるが、家賃であるならば、月々の支払いになるのが社会通念である。
 それが有料老人ホームでは、終身の家賃を一括して前払いすることが多い。

 したがって、“不”表示として「排除命令」となる事例の(1)のように、介護が必要になったら小部屋や雑居部屋に移されるのでは、入居者の借家権を侵害している可能性がある。
 しかも、高齢者住宅が増えてきたことから、国は、「終身」借家権というものを成立させたのである。

 こうしてみると、「2004年」という年は、有料老人ホームはあらゆる面で目が離せない。

 最後に、痴ほうの入居者が、ホームから退所させられる場合がある、ということなので付言したい。
 というのも、痴ほうの人はときに暴力的になり、他の入居者の迷惑になる。ついては、集団生活であるホームを出てもらうのは仕方ない、という一面的な考え方が僅かだがあるからである。

 15年前に、私はデンマークに行って福祉施設を見学させていただいた。
 私は、日本では、入居者が夜に徘徊したり、痴ほうの入居者が暴力を奮ったら、ホーム側はとてもお世話が出来ません、と話した。
 そしたら、笑われた。

 デンマークの人が言うには、夜間に起きているということは、昼間はすることがなくて退屈で入居者が寝てしまった、ということ。そうではなくて、職員の人数を増やして、入居者にきちんと対応すれば日中は起きていてくれて、夜はぐっすり眠るから徘徊はほとんどありません。
 痴ほうの人が暴力的になるのは、不安になって自己防衛をしているのではないか。となれば、本人にしてみれば当たり前のこと。4人部屋ではなく、個室にして安心できる生活空間をつくり、多くの職員を配置してゆったりと対応すれば、入居者は暴力を奮うことは先ずありません。

 そのようにデンマークの人は私に教えてくれた。
 たしかに、グリーン東京でも平成2年に生活空間にゆとりのある介護センターを造ってからは、暴力事件はない。この7月、創業20年となったが、痴ほうだからといってホームを退去してもらったということは、一度もない。
 したがって、痴ほうの入居者が暴力的になるとしたら、ホーム側の怠慢を先ず考えた方がいい。つまり、入居者の責任ではない。
 にもかかわらず、入居者がホームから追い出されるとしたら、おかしなことだと思う。

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