■現代の病院経営
※以下の文章は、「社団法人 日本病院会」の機関紙に掲載された講演録からの引用です。
有料老人ホーム「グリーン東京」社長 滝上 宗次郎
ご紹介いただきました滝上でございます。池澤先生と私と因縁深く,今日ここに呼ばれて,自由闊達にやってほしいということでございます。
厚生労働省の西山課長がさき程,医療保険制度についてお話しなされましたので,まず私,最初 に介護保険制度のホットな話題について簡単にお話し申し上げまして,それから,門外漢ではありますが,病院の経営がどう私に映っているのかをお話し申し上げたいと思います。
まず初めに介護保険制度についてですが,有料老人ホームにおきまして大変大きな話題がございます。というのは,介護保険が始まってからこの3年半,有料老人ホームは爆発的に増えている訳です。大体3倍ぐらいになったと思います。東京郊外の国立にある私の家の周りには,今5つ有料老人ホームがあります。それから,渋谷から出る田園都市線,あれは駅ごとに2つか3つ有料老人ホームがあるのではないか。大体どのくらいの規模かといいますと,1部屋が13平米ぐらいで,40部屋か50部屋ぐらいの小型のホームです。しっかりした統計がないのですが,足立区などは大体1,500か1,600ベッドぐらいの有料老人ホームが今ありまして,老人病院の受け皿となっています。
なぜこんなに増えたかといいますと,関係者全員にとって笑いがとまらないからです。まず経営者にとりましては,要介護5で26万円ですから,要介護者1人に対して大体平均18万円ぐらい介護保険の報酬があます。もちろんこれにはホテルコストと食費は入っておりません。これはお客様から実費でいただきます。
厚生労働省の方はどういう規制を私どもにかけているかといいますと,3対1規制です。3人の要介護者に対して1人の介護職員を置くようにということですので,笑いがとまらないんです。皆さん訪問介護をご存知ですか。訪問介護でホームヘルパーさんが月にどのくらい稼ぎがあるかというと,大体10万円ぐらいです。ということは何かといいますと,ホームヘルパーさんが有料老人ホームで働けば, 18万円もらえば御の字ということですね。要するに,要介護者1人に18万円もらえる訳ですから,それで1人の介護職員が十分に雇えると,こういうことです。ということは,3対1どころか1対1介護でさえ簡単にできるということです。しかし,厚生労働省の指導は3対1でいいという訳ですから,介護報酬の半分以上は私ども料老人ホームのもうけと,こういうことであります。
それから,今申し上げたように,働く方も笑いがとまりません。ホームヘルパーでグルグル家を回っていたら10万円超えるかどうかというときに,18万円ももらえば笑いがとまらない。今日のような真夏に外を走り回っていたら汗だくですね。雨が降ったら大変です。明日の台風でも,冬もまた雪の中で大変。しかし,ホームの中でそのような苦労せずに介護ができると,こういうことです。
それから,家族にとりましても笑いがとまりません。介護保険が始まりましても家族介護は別に楽になりません。要するに,家族介護を楽にするためには施設やホームに預けるという訳で,有料老人ホームに預ければ家族介護の負担はゼロになります。地獄の家族介護はなくなるということです。
それから,都道府県も笑いがとまりません。在宅にいるお年寄りの場合,家族からものすごい不平・不満が行政に来る訳ですね。介護保険が始まれば家族介護なんてなくなるといっていたけれどもなくならないじゃないかとか,不平・不満が来る訳ですけれども,有料老人ホームに入ってしまえば問題は解決します。しかも,在宅でありましたら要介護5で36万円の介護報酬を払わなければいけないのに,有料老人ホームの場合は,26万円で済むと,こういうことであります。
それから,大蔵省,正しくは財務省というんでしょうけれども,大蔵省から見ても笑いがとまりません。というのは,現在の不況といのは銀行の不況ですよね。金融機関が100兆円の不良債権を持っていた訳でございまして,貸出先の大企業にリストラを迫る訳ですけれども,どういうふうに迫るかといいますと,人員を減らせとかいろいろな独身寮を売れという訳ですね。要するに,バブルのときにつくった独身寮を有料老人ホーム業者が半値以下で買い取ってそこで始めると,こういう訳でございますから,大蔵省にとりましても国家経済の立て直しということで,大変有料老人ホームというものは国家国民のために役立っている訳でございます。
こうした有料老人ホームでは,医療面でもまったく困りません。というのは,病院に頼みますと喜んで往診してくれます。病院もたまらないんですね。午前中だけで15人20人診られる。しかも,特養じゃありませんから,15人20人診て全員から往診料が取れるということですね。私の知り合いの病院の経営者に聞きましたら,何と純利益率50%だそうです。 5,000万の往診料に対して2,500万しかかからないと。
こういうおいしい話なんですけれども,では,こんなばかなことを続けていいのかということですが,介護報酬が大幅に下がるかどうか疑問であります。というのは,介護保険の中で有料老人ホームだけ月10万円下げたら,介護保険の3施設,療養型,老健,特養,これも月に10万円下げなければいけなくなる。
となりますと,皆様の病院は関係ないかと思いますけれども,50床100床の病院がこの8月を期限にして療養型に行くのか一般に行くのかという議論がありますけれども,療養型に行けばそのうち介護保険に追いやられて,その後でドーンと10万円も報酬が下がると,そういう訳であります。そんなふうに事は進んでいくのではないかというふうに,介護保険の有料老人ホームの経営者という立場からは先が読めるのではないかなと思っております。
さて,私の経営しているグリーン東京について,介護保険が始まってから3年半の経験を若干お話しします。まず,介護保険が始まってやはりびっくりしましたですね。私は元銀行員をやっていましたし,要するに一般産業ではどんな苦労があるかというと,商売の苦労,商いの苦労というのは3つあります。
1つはお店を構えてお客様に来てもらう。来てもらうのは本当に大変です。次に,お客様に物を買ってもらう。これもまた大変。けれども,一番大変なのは何かというと,売ったものの代金を回収するということが一番大変なんですね。それがどのくらい大変かといいますと,例えば今申し上げました銀行の不良債権の100兆円というのは何かというと,あれは貸したものが返ってこないということです。それから,大企業のいろいろな不良債権というのも売ったものが回収できないんです。そういう観点から見ますと,介護保険に対しては私びっくりしております。これだけの介護サービスをやりましたというふうにポーンとオンラインで送ると,1ヵ月後にはそのままその金額がドーンと振り込まれてくる。まったく私もびっくりしましたね。回収の苦労がなくては甘い経営になってしまうなと思いました。
それから,介護保険は3年ごとに介護報酬の価格が変わる訳ですけれども,それに応じて3年ごとに経営方針を変えなければいけない。要するに,皆様の病院で2年ごとに診療報酬の改定に合わせて戦略を変えていく。今度リハが点数つくんだとか,往診が点数つくんだとか,そういうようなことも私どもやらなければいけないと。そういうことではまったく経営の主体性がなくなります。例えば,介護保険報酬が突然3割下がったら,有料老人ホームというのはそのまま倒産してしまいます。
そういう訳で,売上高の25%の範囲内に介護保険報酬は抑えるというのが経営戦略でありました。ですから,私の経営するグリーン東京では在宅介護には打って出なかったと,こういうことであります。それから, 25%の範囲内に介護保険報酬を抑えていれば,たとえ3割下げられても売上の減少は8%にとどまる。8%ならばやっていけます。
さて,いよいよ病院経営のことについて門外漢の私が失礼なことを申し上げる訳でございますけれども,まず一つ,経営とは何かというと,いくつもポイントはありますけれども,一つは価格支配力を握るということであります。価格支配力を握ったものが勝者となる。例えば花王とライオンが25年前には同格だったんですけれども,いまや花王のひとり勝ち。というのも,ライオンは問屋を通じて小売店に卸していた。花王は膨大な流通機構を整えて直接小売店に卸していた。ということは,ライオンの商品というのは末端の小売店でいくらで売れているかわからない,値崩ればかり。花王は末端価格というものをきちんと押さえたということですね。その結果,花王の勝利だということです。パソコンを見てもそうですよね。今IBMの価格というのはかなり崩れていない。 NEC とか東芝とか富士通,ものすごいダンピングですね。小売店に並んでいる商品は価格が崩れているかどうかで,どの会社が勝っているかということがわかります。
一番価格が崩れていないものが一般商品で何かといえば,自動販売機で売っているジュースですね。要するに,120円のものを100円で買おうとしても反応しないということです。自動販売機の戦略というのは何かというと,国じゅういかにたくさん置くかということが勝負です。要するに,人どおりの多いところに置いていく。非常に固定資産のかかることをさんざんやったんですけれども,結論としてサントリーとコカコーラが圧倒的なシェアを収めた。例えば,サントリーの缶コーヒーでBOSSというのがありますね。サントリーが缶コーヒーも出すの?と不思議に思っていたんですけれども,自動販売機のシェアが圧倒的に高いから,売り出せば,後発であっても高いシェアが取れるということであります。
さて,価格支配力というのはいろいろな多面的なものがありまして,例えば,政治力があるかないかです。例えば公共工事。公共工事というのは民間の工事よりも大体3割から5割高い訳です。公共工事をいかに取るかということが重要です。で,値崩れしないように談合がある訳ですが,その談合の調整役として何があるかというと,やはり族議員がいる。族議員の政治支配力というもの,要するにゼネコンと政治家との密着性というものが価格支配力になっているということであります。
それから,診療報酬もそうですね。これは勝手に厚生労働省が決めるのだということではなくて,日本医師会の政治力というものがあるということです。ですから,従来ならば日本医師会が取ってきた診療報酬の引き上げ分を分捕り合戦する場が中医協であったということです。ですから,中医協が非常に重要でありまして,この日本病院会の発足は昭和26年でありますけれども,昭和26年に設立されて,その年にまず何をやったかというと,当時の橋本厚生大臣に対して中医協に日本病院会からメンバーを送りたいという要請をしてきた訳です。日本病院会の歴史をひもとけば,かなりそのままそれは中医協ヘメンバーをいかに出すかと,そういった大きな問題がありました。
そこで池澤先生と私とのおつき合いが始まる訳でありますけれども,今から6,7年前,橋本内閣のときに6大改革がありまして,私はそのうちの医療と福祉を担当した訳であります。そのときに池澤先生から中医協のメンバー構成を変えるようにということを最大テーマにしてほしいという依頼がありまして,私は引き受けました。中医協の支払側の方は労働組合ばかりですから,連合に何度も挨拶に行って,そしてとうとう連合のオーケーを取りました。そして,私の委員会の重要メンバーに連合の副会長で,自動車総連の会長でもある得本さんに入ってもちったという訳であります。それでとうとう総理大臣に中医協のメンバー構成を変えてほしいという建議ができたということであります。そうしたら,大変でありまして,それ以来日医とは仲がいいと。ほんとかな。
しかし,診療報酬がこの間のように下げられてどうなったかというと,日本医師会はそこでの政治力をかなり失った訳です。要するに,最大の強みというのは,それがマイナスになるとまったく意味をなさないということですね。そういうものはいくらでもあります。例えば松下電器というのは本当に強かったですね。ソニーとかいろいろな会社が新製品を出しても,松下電器は物まね電器といって,遅れて出しても,自分は全国に2万5,000店チェーン店を持っているからバッと販売できる。しかし,秋葉原とかああいうところにヨドバシカメラとかビックカメラとか安いものができてしまって,それが新宿などや他の地域にも展開し始めると,今度は2万5,000の松下電器の店は逆に重荷になってしまった。一番の強みというのは弱みに転化したときは,地獄になるということであります。
さて,私の会社の人事管理について申し上げます。私は病院も老人ホームも人事管理が経営の根本だというふうに理解しています。なぜかといいますと,どちらもチームワークでさまざまな職種が働くということです。しかも,医療も福祉も別に工場で生産している訳ではなくて,職員が働く病院が,職員が働く老人ホームがそこにそのままお客様もいるということです。ということは,職員教育というものがどれだけ営業面において重要かという訳であります。
私のホームは従業員が約100人であります。株式会社で運営しておりますけれども,市民ボランティアが10人ぐらいいらしてくれています。 110人に対して管理職は8人。8人のうち3人がパートです。要するに,3人のパートが正社員を使っているということであります。次に男女比率で申し上げますと,管理職8人のうち半々であります。4人が女性であります。
さて,うちはワーカーが3人おり,うち2人が社会福祉士です。社会福祉士は2人とも法学部を出ています。法学部を出て普通の企業に入って,そこで5年10 年苦労して,それで考えがあって社会福祉士の学校に行って資格を取って,それで医療機関と福祉会社に働いていたのを一本釣りでうちに採用したというのが経緯です。なぜこういうことをやっているかといいますと,皆様もワーカーとおつき合いあると思うんですけれども,ソーシャルワーカーというのは一言でいいますとソーシャル性がまったくないからです。要するに,ソーシャルワーカーの仕事というのはいろいろな異なる意見をいう方々の権利の調整をやる訳で,最も社会性がなければいけないんだけれども,一体ああいう社会福祉士を育てる大学というのはどんな教育をしているのか私は不愉快なんですが,まったくソーシャル性のない人たちを育ててくるという訳で,仕方ないものですから,私の会社ではほかの一般産業で苦労した人間を雇っているということです。今日レジュメを見せていただきましたら,済生会病院の副院長の正木先生がやはり商学部をお出になって,住友金属に長い間いらして,それで済生会病院で事務長をされているということを見まして,やはりそうなんだなというふうに思いました。
それから,有料老人ホームはOT,PTの加算が取れますけれども,取っておりません。常勤で雇えば加算が取れるんですけれども,取っていないんですね。理由は何かというと,とくにPTなんですけれども,はっきりいってあの人たちのやることは鬼軍曹であります。「はい,歩けるようになりましょう」とか「もう10本」とかこういうことですね。冗談じゃないんですね。有料老人ホームというのは生活の場なんです。生活の場に医療を持ち込むというのは嫌なんです。ですから,うちではどうやっているかというと,リハをやっている病院にうちから通わせて,そこでリハをやります。すると,お客様の方も病院に行くんだから痛い思いをするのは仕方がないんだねということです。痛い思いをしたくない人は行きません。要するに,老人ホームというのは生活の場だから,昼間から酒くらって引っくり返っているところです。そして,病院に通院させるということは職員にとっては大変です。そういうことをやって初めてうちの100人の職員はグリーン東京というのは生活の場だとはっきりわかる訳ですね。あと,石心会病院の方から今リハビリ室長の山口先生に来てもらって教育を受けたり,そんなことをやっております。要するに,生活の場ということを職員がわかれば,主人公とは自分たち従業員ではなくて,お客様が主役だと自然に理解してくれる訳です。
さて,私のホームではサービス残業は一切ありません。なぜこんなことを話すかというと,最近サービス残業で物すごい新聞をにぎわしているということ,それから介護保険が始まってから特養が苦しくなってすごくサービス残業をやっておりますね。そういうことでちょっとお話しさせていただきます。なぜサービス残業をやらないのかといいます と,サービス残業というのは,私も10年間三菱銀行でサラリーマンやって苦労しましたけれども,サービス残業というのは気の弱い人間が一番残業時間が長くなるということなんですね。要するに,チームワークをぶち壊すのがサービス残業です。医療も福祉もチームワークで働くのに,ああいったものを導入したらおかしくなるということです。それから,サービス残業をやってみると分かるんですけれども,いい人材からやめていきます。それから,経営者にとっても困るんですね。サービス残業をやってもらうと,どの部分が残業が多いのか,どこが生産性が悪いのかというのが分からなくなってしまう。そういう意味でうちはサービス残業は一切ありません。
さて,病院における組織なんですけれども,本当に門外漢が余計なことをいうようで失礼なんですが,私もいろいろ先生がたとおつき合いしてきておかしいなというのが何点かありましたので,申し上げます。10年ぐらい前ある地方のある大きな病院に講演を頼まれて行きました。そうしましたら,そこの院長先生が「滝上さん,新しい副院長なんですよ」ということで紹介してくれました。そこに女性がいたんですね。私の方は病院の中もようやく男女平等になったかと思いました。女医さんを副院長にしたのかと思いましたら,名刺交換してびっくりしました。女医さんではなかったですね。副院長兼看護部長と書いてありました。なんだ,肩書だけの副院長かと思いましたね。「そこまでやるんだったら女医さんを副院長にされたらどうですか」と院長にいいました。「そんなことやったら,滝上さん,大変なことになるよ」と。おっしゃる通りですね。でも,私が思うに,はっきりいって女医さんをトップに持っていった方が看護婦の士気は高まるのではないかと思います。 確かに案の定その夜,院長主催の私の歓迎会がありまして,医者の副院長と看護婦の副院長が出席されましたけれども,看護婦の副院長は何をやっていたかというと,若造の医者一人ひとり回ってお酌していました。肩書と権力が,肩書と序列が一致しないような組織をつくったら,これはいつか壊れると思います。もし副院長に医者の管理を任せ,看護婦の副院長に看護部門の管理を任せるのだったら,これは民間病院でいえば事業部制でありまして,そこにはお互いに干渉しない,チームワークがないということですから,これは病院ではおかしいと思います。
ただ,日本の問題は何かといいますと,看護婦に対して人事管理能力を高めるような教育システムが今,日本にないということです。ですから,めいめいの病院で管理職教育をしているということですね。それから,看護婦を院長にしたら医者はやめていくんじゃないかということですね。実に日本の病院というのは組織の力の強さにおいてまだまだ幼稚ではないのかなと,私にはそんなふうに思われます。
さて,僕の知り合いの民間病院の理事長は多いんですけれども,彼らが最近始めたことは,とくに去年の4月1日以降のことなんですけれども,やたら日本経済新聞を読むようになったんですね。私は,どの先生にも,「日経新聞を読むのはいいんだけれども,あそこに書いてある経済情報とか経済分析は決して読んでくださいますな」と,申し上げています。この20年間,経済学者のいうことは一つも当たってこなかったんだから。バブルをつくって,バブルを壊して,不良債権つくって,何もできていないですよ。日経新聞の読み方は何かといったら,あれは産業の動き,企業の動き,あれを見ていくんです。どこどこがこんな経営をしている,どこどこが何々部門をアウトソーシングしたというふうな形でチラッと見出しを見ながら,いろいろな産業でどんな動きがあり,新しい経営方法を取っているのかというものをちょっと頭に入れておけばいいということです。
それから,マネジメントを勉強する理事長が多くなって,質問が来て困るんですけれども,ビジネススクールに通いたいとおっしゃるんですが,あれは絶対やめた方がいいです。むだ。なぜかというと,ビジネススクールで教えているのはだれかといいますと,経営者ではないんです。ただの何の苦労もない大学教授です。大学というのは日本で一番競争のない社会です。そんな人から教えを請うても何の役にも立たない。何を教えるかというと,日産のカルロス・ゴーンとかGEのジャック・ウェルチの経営哲学とか経営手法を教える訳ですね。しかし,ビジネススクールの学生が1,000人いて,その中の1人がカルロス・ゴーンになれるかというと,なれっこないですよ。だったら,自宅で徳川家康を読んでいた方がいいんですね。私にいわせれば,1,000人の大学院のビジネススクールの学生に教えてもらいたいのは,せいぜい課長か部長どまりなんだから,部長になったらどういう仕事があるのか,そういうことを教えてほしいんですね。しかしそれはビジネススクールでは教えてくれません。なぜかといえば,大学教授だから。大学教授だから組織というものを知らない,経営というものを知らない。だから,中間管理職はどう動くのかまったく知らない。だから,ジャック・ウェルチは格好いいよ,カルロス・ゴーンは格好いいよという講義内容になるんですね。ですから,勉強しても決してむだはないとは思うんですけれども,積極的にお考えにならなくてもいいと私は思います。
それから,カルロス・ゴーンにしてもジャック・ウェルチにしても,日本語で彼らの人生というのはもう本になって出ています。お読みになるといいです。お読みになると何がわかるかというと,もう20歳で天才だったんですよ。 25歳のときにははっきりいって群を抜いていてすごかった。だから,ビジネススクールの生徒の年齢というのは25歳でしょう。全然スタートラインから違うんですね。おやめになったらと思います。
レジュメの8ページに「現代の病院経営」というのでちょっと書いてみました。ちょっと読みます。
なぜホテルの経営を「病院革命」とまで称したのかということですね。「80年代の前半,アメリカでは病院革命が進行している,と日本のマスコミは報じていた。革命が本物ならば,この目で見たいものだ。私は88年春,新聞社やフリーの医療ジャーナリストと一緒に,アメリカ駐日大使館の通訳に同行してもらい,全米の病院を回った。
300床に対して1,200人もの医師,看護師らの職員の多さには圧倒された。株式会社の病院もあった。1日10万円という宿泊代に驚き,私は病院のまずい食事を批判した。私への反論は,食事に不平が出るようになったら患者は回復したということ,すぐ退院だ,というもの。何から何まで驚いた」。
さて,1988年に私はアメリカに行ってびっくりしましたね。僕は30年前に1回アメリカを半年間ヒッチハイクで旅行しました。そのときはスラム街ばかりいたので分からなかったのですが,88年にアメリカの病院に行ったらびっくりしました。広大な敷地,ゴルフ場が2コースぐらい入るようなところに全部芝が生えていて,すばらしい建物がある。これが病院かという感じですね。超高級ホテルでした。非常にカラフルで豪華。何でこんなにカラフルで豪華に見えるのかなと考えました。日本の病院と違うなと思いました。よく見ていたら分かりました。そうか,ここには外来患者がいないんだと分かりました。だって,日本の病院は朝の7時半ぐらいから外来患者が50人100人ダーッと待っているでしょう。病人だからすごく暗い顔して。あれで病院全体が暗くなってしまうんですよね。
病院の中を歩いていると,次にびっくりしたのは何かというと,患者のほとんどが白人だったんですね。これは一体何なんだと思いました。向こうの病院の人に聞きましたら,理由は簡単ですと。民間保険でも30ぐらいあるらしいんですけれども,トップクラス,トップ中のトップ,ブルークロスとかいう最高級の民間保険に入っていないとこの病院には入れませんとはっきりおっしゃいました。
驚いたのは,ロビーというか一番目につくところに個人の名前がプレートであるんですね。「あれは何ですか」といったら,さすがアメリカ的でした。寄附してくれた人のお名前ですと。僕が感心したのは何かといいますと,どの人のどのプレートも同じ大きさ,それから寄附した金額が書いていないんですね。あれはよかったです。
この5月私は信州を旅行していたんです。ひなびた神社がありまして,いいなと思って奥まで行ってみたら,やはり案の定寄附者の名前がありました。要するに,昭和30何年これが壊れたので直したということで,寄附者の名前がありましたね。最高はだれのだれで10万円,次は7万円,5万円,3万円,1万円。その辺でやめておけばいいのものを, 5,000円,2,000円,1,000円と来る訳ですね。結局1,000円しか払えなかったものは一生消えない名前がそこに記されるということです。これが日本社会ですよね。村で生活するというのは大変つらいものがあって,私はやはり東京がはやるのかなと思いました。
さて,別にアメリカの話をしているのではなくて,現在皆様方の病院は外来分離というものが大きな経営テーマになっていると思いますし,すでに外来分離している方もいらっしゃると思います。要するに,診療報酬が変わったから,あっちの方が点数が高いから外来分離しようというのはあまり賢くないですね。主体性がないですよ。職員だって嫌ですよね。2年ごとに,やることが違ってくるのかなと。外来分離しなきゃ損だからやる。それは当たり前なんだけれども,そこにもう一つ付加価値をつけた方がいいですよ。もっともっと違うものをね。
私は経営というのは何かというと,世の中変化するから経営も変化しなければいけない。その変化に対してシステム対応とニーズ対応の2つがあります。診療報酬が変わったから外来分離すればいい。これはシステム対応です。リハに点数がつくから訪問看護に点数がつくからというのはシステム対応です。しかし,こういうのは長続きしないですよ。根本が崩れたち一緒にやられてしまう。そうでなくて,重要なのがニーズ対応です。患者のニーズはどこにあるのか,お客様の欲しているものは何なのかということですよ。ですから,民間病院で訪問看護をやっているところもそうですよね。今しっかり訪問看護で利益が出ているのは何かといえば,訪問看護に点数がついていないときから,地域のマーケットを自分のものにするためには訪問看護に点数がつかなくてもやらなければいけない,そういう病院ですよね。つけ焼き刃では絶対生き残れないです。僕は病院の競争というのは厳しいけれども楽な面もあると思うのは,地場産業だからです。がんの患者なんかを除けば,大体病人というのははっきりいって移動距離が短いですから,みんな地場産業。地域を押さえれば勝てるということですね。
さて,明日の講演に医療材料というものがあるので,ちょっとお話し申し上げますと,いかに物を安く買うかということなんですけれども,私のホームは福祉機器は大体半値で買っています。私のホームは1ホームしかなくて定員が155人ですから,特殊浴槽が1,000万円とか車いすが今20万ぐらいするんですが,普通に買えば2割引ぐらいにしかならないんですよ。私のホームは全部どこから買うかといいますと,ある病院を通じてです。あそこは数千ベッド持っているんですよね。ですから,うちはそこを通じて,それで3%のリベートを払って買っている訳ですね。ですから,うちが直接買ったら2割引なんだけれども,そこを通じて入ってきますから半値。で,3%をキックバックしてやる。これだけですね。これが共同購入ということですよ。
けれども,そこの事務総局長と話したんですけれども,悔しいことが一つあるといっていました。それは何かというと,心臓関係のペースメーカーとかカテーテルは安く買えないんだということです。僕の勤務している女子医大でも調べたんですけれども,女子医大の心臓外科は大変多く手術をやっているのに,ここでも針金の曲がったようにしか見えないカテーテルを大変高額で買っているという訳ですね。
経済審議会の座長になったときに,総理に建議するために日本の2倍,3倍高いアメリカ製品をテーマにしました。そうしたら,びっくりしましたね。どこでどう話がつながったのか分からないんですけれども,翌日にはアメリカ大使館から電話がかかってきました。誤解があると思うのでご説明に上がりたいという訳です。はっきりいえばおどしですよ。
それに比べれば日本の大使館というのは海外で何もやっていない。瀋陽の事件を見ても分かるけれども,日本の大使館というのはビザの発給ぐらいしかやっていないでしょう。だったら, JTBだとか旅行代理店にかわりにやらせればいいんですよ。もっともっとずっと観光客を日本に引っ張ってきて,外貨を稼いでくれると私は思います。
もう一つの例は,4年前に会津に竹田総合病院という1,100ベッドの急性期の病院がありますね。あそこに講演で呼ばれたんですけれども,行ってびっくりしましたね。門前薬局が8軒だったかな。私1軒ずつ全部回って,全部店員さんと話しましたけれども,少なく見積もっても50人が働いているんですね。いかに医療材料費というところにまだまだ問題が多いかということであります。
それから,次に電子カルテについて若干申し上げます。私は銀行員だったときに恐ろしい経験をしています。私が銀行に入ったときには第1次オンラインが終わっていました。要するに,預金関係のオンラインは終わっていた訳ですね。その後,私が貸付に回ったときに第2次オンライン,要するに貸付業務の判断をコンピュータがするという第2次オンライン化に移ってきました。それから数年で何か起こったかというと,この会社がいいか悪いかというのをコンピュータが判断してしまう。そのためにその数年で一つひとつのお店の貸付業務員の能力がどんどん落ちていったんですね。コンピュータはレギュラーなものは判断するけれども,イレギュラーは判断できない。そのためにバブルというイレギュラーに対して対処できなかった。現在100兆円の不良債権が銀行にあるということはいろいろな理由があると思うけれども,私が自分の経験で思うには,コンピュータ化することで,オンライン化することで,電子化することで個々の融資業務の判断の能力が底抜けに
落ちたということです。
電子カルテというのを私も見たことありますけれども,一番最初に始める病院というのは理念に燃えているからいいですよ。しかし,二番手,三番手の病院というのは変なふうに使うんじゃないですか。診療なんて要らないよ,ちょこっと病名書けば診療がポーンと出てくるよ,薬はこれだよと。そんなケースを 2,000ぐらいつくれば,ポンポンできますよと。要するに,病院の経営者は大喜びですよ。三流の医者でこれから診療ができると,こういうふうに考える病院も出てくるかもしれない。医療の荒廃を招かなければいいなというふうに思います。
経営とは何かということでありますけれども,17年間経営者やってきたので語れることはたくさんあるんですけれども,今日は人材とは何か,その1点に絞ってお話ししたかった訳です。「人は石垣,人は城」ということですね。ご静聴ありがとうございました。
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